2.開国派


開国派の論拠を最も端的に示すのは、2008年10月に経団連が発表した報告書である。同報告書に沿いながら、開国派の議論を紹介しよう。開国派の議論の根拠は日本の人口動態である。まず人口の減少である。前章で見たように2055年までには、日本は3千万の人口減少を経験するだろう。しかも生産年齢人口は現在の約半分となる。その上に都市への流出も加わる農村地域では、さらに厳しい人口の減少を見る。前の章で紹介した図を、もう一度見ていただきたい。急激な高齢化と少子化の結果、2055年には従属人口比率は1.3まで悪化する。つまり1人の高齢者と年少者を支えるのは、生産年齢人口に属するたった1.3人という計算になる。


図12-3
資料提供 金子隆一氏

高橋和夫の国際政治ブログ
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こうした人口動態の急激な変動は、まず経済成長に悪影響を与える。それは第一に労働人口が減少するからであり、第二に予想される貯蓄率の低下が資本ストックの蓄積を鈍化させるからである。第一線を退いた高齢者の多くは過去の貯蓄で生活し、新たな貯蓄に励む引退者は稀だからである。第三に人口減は、消費を縮小させる。また人口動態の変化は、財政・年金制度の維持を困難にする。


>>次回 に続く


放送大学では2009年9月の放送開始に向けて『世界の中の日本』というテレビ科目を制作中です。高橋は「世界と日本」、「外交/軌跡と針路」、「メディアの風景」、「三丁目の日没後、または人口動態と国際政治」、「異邦人か、隣人か?外国人労働者」、「イスラム教徒」、「グローバル化の行方」の7回に参画しています。アップしたのは、テキスト(印刷教材)の草稿です。