イランを巡る状況


アメリカと力比べをしているイランはというと、2002年には衛星写真が公表されて、核開発をしているということが暴露されます。日本だって原発がたくさんあるし、イランが何で問題なの?というと、ウラン濃縮が問題だからです。天然界にあるウランを濃縮すると、原子力発電所を動かす燃料ができて、さらに濃縮すると核兵器の材料になる。平和利用と言っていますけど、イランがひとたびウラン濃縮技術を完全にマスターしてしまって、ウランを濃縮できるようになればいつでも核兵器に転用できるようになる。


イランの議論は「うちは平和利用ですよ。日本だって濃縮しているじゃないですか」。確かに日本も濃縮しています。日本がウランを濃縮していて、なんでイランが濃縮してはいけないの。日本が平和利用するのはみんな信じて、ハイテク技術を持っていても平和利用だと信じているのに、なんでイランは信じてもらえないの。イランだってハイテク技術が欲しいじゃないの、というわけです。


しかしアメリカはそれを信じていない。そんなの爆撃して潰してしまえばいいじゃないか?と。でも、イランというのはすごく広い国で、各地に設備が分散されている。アメリカが北朝鮮を爆撃しない理由の一つは、爆撃しても全部潰せないという恐れがあるからです。イランの場合も同じようなことが言えて、軍事的な解決というのはなかなか難しい。


イランが完全にウラン濃縮技術をマスターする。核兵器を作るに十分なウランを蓄積する。そうしたシナリオが何年か先に現実になります。だから悪くすれば核兵器を持ったイランが出てくるかもしれない。でも、イスラエルも、パキスタンもインドも持っているわけだから、もう一つ増えてもしようがないじゃないか。だからその国と生きていくしかない。それがいやだったら戦争するしかないじゃないですか。イランに関しての議論と言えば、突き詰めれば、そういうことだと思うんです。この戦争とイランのウラン濃縮技術確立の見通しの間に何か妥協案はないかと、今いろいろ努力している状況にあるんです。


ブッシュ大統領の任期はあと少ししかないんですけど、もしイランが核兵器を持つということになれば、そんなイランを後世に残したと、後ろ指を指されたくないということで結構強気なんです。イランはイランで、アメリカの足下を見ていて、アフガニスタンで苦戦していて、イラクでアップアップで、何もできるはずないじゃないかと。そういう雰囲気になっているわけです。


イラン・イスラエルの対立


実はこのイラン政策というのはイスラエル政策になるわけです。アメリカの大統領候補は?


ヒラリーさんは「もしイランがイスラエルを核攻撃したら」、「もし」ですけど、イランを「殲滅する」というすごい言葉を使いました。だからイラン政策については大変に強硬です。


オバマさんはなんと言っているか?「ブッシュ大統領とチェイニー副大統領にイランと戦争を始める権限を国民は与えていないんだ」と。勝手に戦争を始めてもらっちゃ困ると、まともなことを一方で言っているんですけど、他方で、ユダヤ人との会合では「軍事力の選択肢を机の上からおろしてはいけない」と言っていて、どっちなんだ!という感じです。ただオバマは少なくとも、アフマドネジャード・イラン大統領と話し合う用意があるとは言っています。


じゃ、パレスチナ問題についてオバマはなんと言っているか?「ハマースというのは無実の人をたくさん殺すとんでもない組織だ」と言っていて、アメリカの大統領候補らしく、すごくユダヤ人に気を遣った言い方をしている。


アメリカのユダヤ人は基本的にヒラリーを支持してきました。もし、オバマが大統領になったらイスラエルに対してアメリカの態度が厳しくなるのではないかと、少なくともアメリカのユダヤ人は心配している。オバマはそんなことはないと言っているけれども、大統領になったら変わるんじゃないかという心配をしている。


共和党が選んだのはマケインさんです。アメリカ海軍のパイロットで、ベトナム戦争で北ベトナムに爆撃に行って、撃墜されて北ベトナムの捕虜収容所に長期に滞在したという人物です。捕虜になるまで戦ったということで、帰国後に大変な英雄として政界に出てきたわけです。


イラク戦争に関して彼は何を言ってきたか?「イラク戦争はそもそも良い」と。ブッシュの間違いは何か?イラクに兵隊をたくさん送らなかった。兵力が少なすぎたから失敗したと。ブッシュが去年から3万人を増派しましたけど、「ほら見てみろ。俺が言ったとおりやったらうまく行くだろう」と。イラク駐留というのは、これからも続けるんだと。100年間だってやるんだと。戦争で負けるぐらいだったら選挙で負けた方がいいと。基本的にブッシュ路線の継続ということになるわけです。


では、あなたはイスラエルの安全保障はどう考えているのですか、イランのことをどう考えているのですかと聞かれたとき、マケインは答えずに歌を口ずさみました。ふた昔前に流行った「バーバラ・アン」という歌です。「バーバラ・アン、バーバラ・アン、バーバラ・アン・・・」と早く言うと、なんとなく「ボームイラン」と聞こえるんです。「ボームイラン」=「イランに爆弾を落とす」と聞こえる。俺の答えは「バーバラ・アンだ」と。


イランと日本


だからブッシュがいるかぎりイランとアメリカは衝突する可能性はあるんですが、ブッシュが辞めてもそういう可能性は残る。そういうアメリカとイランの力一杯の綱引きの中でパレスチナ問題もあるし、ガザの苦しみもあるということかなと思います。


日本はイランに対して「国際社会の信任を得ることが大切ですよ」と一生懸命言っていて、イランは「日本だってウラン濃縮やっているのに、なんでイランにウラン濃縮をやめろと言うんだ」と反論しています。実は、日本のウラン濃縮に関してもIAEA(国際原子力機関)の厳しい査察が何十年間も入っていて、やっと最近IAEAは、日本は原爆を作る意志はないようだと結論を出しました。だから、すごく長い間の努力があって初めて信任を得られるんですというような説教がましいことをイランに言っているんですけど、イランが聞いているかどうかはよく分からない。それからアメリカに対してはもちろん、「戦争は困ります」とはずっと言っている。


アメリカとイランの真ん中に入って日本の外務省は、戦争、あるいはイランのウラン濃縮の容認、その間に何かスペースがあるんじゃないかと。妥協の余地があるんじゃないかと、いろいろやってはいるんですけど、あまり成果はないようです。


どこかに落としどころがあるのか、ないのか。僕は基本的にはないんじゃないかという気がしています。イランのウラン濃縮というのを認めざるを得ないんじゃないかと。というか、もう実際にウラン濃縮は進んでいるわけで、これを認めないということはできないんじゃないかと。


イランのほうもアメリカの足下を見ているんです。アメリカは、イラクに15、6万の兵隊を送っています。アフガニスタンに3万ぐらい送っていて、アップアップです。世論はイラク戦争反対でブッシュの支持率は一番低いんです。こんな中で戦争なんかできるわけがないんです。国際経済を見ろ、石油は1バーレル140ドルを超えていて、これで戦争なんかしたら、150ドルとか200ドルとかになって、あり得ないだろうとイランは思っているわけです。確かに合理的にはあり得ない。だからイランはすごく強気なんです。


でも、ブッシュとチェイニーが合理的に動くという保証もどこにもない訳です。ブッシュとチェイニーは、核武装したイランを次の世代に残すという責任を負いたくないと思っている。アメリカもイランもどっちもテンションが高い人たちで似ている。イランは強気でアメリカがやるはずがないと思っている。アメリカはと言えば、やることはやらなければいけないということです。アメリカが何をしているか?というと、昨年からはペルシャ湾岸地域にはアメリカ軍の海軍の航空母艦の部隊が二隻いるんです。


航空母艦が二隻もいるということはイラク攻撃のとき以来です。アメリカは、航空母艦はアフガニスタンとイラクの作戦のために派遣したんだと言うが、アフガニスタンとイラクに爆弾を落とせる航空母艦の艦載機はイランに爆弾を落とすためにも使えるわけです。


だから、アメリカは戦争をすると決めているわけではないけれど、いざやるとなった時はやれる準備だけはしておこうと。世論はもちろん戦争に反対だし、合理的にはあり得ない。けれどもブッシュが合理的に考えるという保証も無い。なんか不安なんです。


>>次回、「ノルウェーという例 」に続く



*2008年5月25日(日)に築地本願寺講堂で行った講演の録音を文書化した内容です。話し言葉を文書にしましたので、書き言葉としては、不満な文体です。
「激動の中東情勢とアメリカ大統領選挙」
NPO特定法人パレスチナ子供のキャンペーン主催
シンポジウム『60年目のパレスチナ難民-2008年のガザとレバノン-』