アイ・コンタクトのアイは、聴衆への「愛」であり出会いの「会い」である。


プレゼンとは?

プレゼンテーションとは何だろう。最近は約してプレゼンという言葉も良く耳にする。それは、情報を主として口頭で伝える行為である。相手は一人の場合もあれば、不特定多数の場合もある。主として口頭でと述べたのは、最近はパワーポイントなどの道具を使って映像や音声などを多用したプレゼンも増えてきたからである。プレゼンの上手な人をプレゼン力が高いなどと評価する言葉もある。そのプレゼントはどうやるのか。以下は筆者の経験的な体験的なプレゼン論である。


事前の前提

まず第一はメッセージである。何を伝えるのか、明確な考えを持っていなければ、相手の心には届かない。前章で述べた論文のテーマの設定の際と同じように、何を言いたいのかを自らに尋ねる必要がある。そして第二に、それが伝えるに値するメッセージであるかを自問したい。意義のある内容であるかを確認したい。そして、もし熱いメッセージが無いのなら、どうしても伝えたいとの気持ちの湧かない状況であれば、そのプレゼンは辞退すべきである。そして第三は、いかに伝えるかである。この第三の部分が本章のテーマである。プレゼンの技術論である。繰り返そう。ぜひとも伝えたいとのメッセージが無ければ、プレゼンはしない方がよい。これは絶対に伝える価値があるとの内容のメッセージが無いのなら、やはりプレゼンは辞めた方がよい。


高橋和夫の国際政治ブログ

図12-1<プレゼンの「成功」>


事前の準備

プレゼンで一番重要なのは事前の準備である。二番目に重要なのは、もちろん事前の準備である。三番目に重要なのは、やはり事前の準備である。プレゼンの成功は事前の準備次第である。内容が決まったら、練習が必要である。時間内に話しを終えるようにする。これが練習の最初の目標である。講演、学会発表、ゼミでの発表、テレビでのコメントなどの場面では、プレゼンには普通は時間という厳しい制約が課されているからだ。


その際に最低限に必要な道具はストップ・ウオッチである。まず時間内に話を終えられるように練習する。時間内に終えられるようになれば、次は鏡に向かって練習をする。原稿やノートを見ないで、顔を上げて話せるようになるまで練習する。そして自分の声を録音すると良い。自分の声を聞いてみると、語尾のはっきりしない単語に気がついたり、話し方が一本調子なのに気がついたりする。ビデオ・カメラで自分の話しを録画するとさらに良い。可能であるならば実際にプレゼンをする会場で事前に練習できると最高である。


講演や発表の時間には制限があるが、練習の時間には制約がない。無限の練習が許されている。納得が行くまで、自信がつくまで練習また練習である。練習しよう何度も、そして何度も練習では失敗をしよう。練習とは本番で失敗しないように事前に十分に失敗する行為である。練習は完璧を作るという英語のことわざもある。もっと身近に感じるのは、日本のスポーツ根性物の漫画などで使われそうな「練習は嘘をつかない」という泥臭い言葉である。プレゼンのゼンは事前準備の「前(ぜん)」である。


時間が指定されて無い場合は、話の長さをどうやって判断するのか。それは場を読むのである。2時間のゼミで発表者が10人なら120分を10人だから1人当たりの時間は12分、質疑の時間も必要だから実際の発表は6分かなと場を読む必要がある。こうした状況で30分もしゃべると他の学生に迷惑である。若い世代の表現を借りるとKY(空気が読めない)な奴になる。この場合なら場が読めないのだからBYだろうか。そんな人間にはバイバイをしたい。一般論で言えば、与えられた時間より、短めに話す方よい。それは第一に司会者に感謝されるからである。なぜならば多くの場合KYやBYの発表者がいて時間不足になる場合が多いからである。感謝感激した司会者が、将来に次の機会をくれる場合がある。この人を発表者に選んでおけば時間の調整が可能であると思うからである。第二に話と言うのは、時間が長くなればなるほど聴衆の注意を引き付けておくのが難しい。短い話の方が長い話より印象に残りやすい。短い話をする方が聴衆の印象に残り司会者に感謝されるとなれば、長い話をするのは損である。話しの短い人の方が、何度も機会を与えられるので、結局は長い時間を人前でしゃべれるのではないだろうか。


事前準備の一環として意識しておきたいのは聴衆のプロフィールである。性別、年齢、テーマについての知識のレベルなどは知っておきたい。聴衆に合わせて内容を調整する必要がある。例として、どのようなものが適当なのか、内容のレベルをどうするか、講演内容の決定の際に聴衆のプロフィールが不可欠である。専門家に素人向けの話は失礼だし、素人に専門家向けの内容は気の毒である。


発表の順番

学会などで一つの部会で何人かが発表する際には、何番目が良いだろうか。お薦めは一番である。それは疲れていない聴衆に一番良く聞いてもらえるからである。第二に、以下で述べるようにパワーポイントなどを使用する場合には、器材を設定し調整した直後に発表を始められるからである。二番目の発表者になってパソコンが立ち上がらずに苦労した経験が筆者自身にもある。学会発表では、事務局と交渉して一番バッターになろう。


配布資料

事前の準備の一端が配布資料作りである。詳細な資料を作るのは良いのだが、事前に会場で資料を配布すると、聴衆の注意が資料に向けられて、話に耳を傾けてくれない場合が出る。講師が資料を読み始めたりすると、聴衆は一斉に下を向いて資料を読み始める。目で読む方が、講師の読み上げるスピードより速いからである。


スライドを使う場合に、そのコピーを事前に配布するのも考え物である。事前に映像を見てしまうと、最初に会場で映像を見たときの衝撃が薄らいでしまうからである。どうしても詳細な資料を配る必要がある際の解決法として、事前には講演のポイントのみを示したメモを配り、講演後に出口で詳細な資料を配布してはどうだろうか。


最近の講演ではパワーポイントというソフトを利用する例が増えた。便利な道具ではあるが、注意が必要である。一つは、映像を見やすくするために会場を暗くする必要がある。聴衆には眠りこける条件を整えているようなものである。またパワーポイントで字の細かい表を提示する発表者の例も散見される。これも問題である。聴衆は視力検査を受けに来ているのではないからだ。また聴衆はケニアのマサイ族の戦士のように視力が良い人ばかりとは限らない。さらに悪いのは、小さな字を暗い会場で見せると、強力な催眠作用を発揮するからだ。やはり前提としては聴衆は怠惰であるとして、表を見せるならグラフにして見やすくして示すべきである。


テレビのワイド・ショーを見ていると、表が出てくる場面は稀である。視聴者には、表は見てもらえないと民放のテレビ関係者は良く知っているからだろう。聴衆に訴えようとする場合も同じではないだろうか。パワーポイントは便利である。しかし、それに頼りすぎると、やはり話のインパクトが弱くなる。道具に使われてはいけない。パワーはメッセージの強さから来るべきであり、ポイントは議論の明確さから浮き上がって来るべきである。ケネディ大統領もキング牧師もパワーポイントなど使わずに雄弁家として歴史に名を残している。


直前の事前準備

余裕を持って事前に会場に到着したい。パソコンの調整などすべきことは多い。通訳付の講演の場合は、必ず通訳との打ち合わせの時間を十分に取りたい。パワーポイントなどを使う場合には、そのハードコピーを、つまり紙に印刷したものを、通訳用に持参しておくべきである。通常、会場の二階から講演者を見下ろす形で通訳席が用意されている。スクリーンから一番遠い位置である。通訳には、パワーポイントの細かい数値などは見にくい。


マイクの調整もかねて、事前にぜひとも実際に講演する場所に立ちたい。多くの視線が自分に向けられる場面を想像しておきたい。これが、「上がり」の予防にもなる。慣れていなければ、突然に舞台に上がって多数の視線にさらされると精神の安定が保ちにくい。そして事前に資料や時計を演台において置こう。


講演の際に立つのか座るのか、もちろん可能であれば立つべきである。この方が声も通るし、聴衆から講師が見やすい。また会場で動ける方が躍動感を与えられる。


マイクを使う場合は、ピンマイクか、あるいは手持ちのマイクが良いのか。ピンマイクであれば、両手を使えるので手のジェスチャーを使う講師は、ピンマイクが良い。だがピンマイクの場合は、どうも性能的に劣るようで、トラぶった経験が何度かある。経験的には不安が残る。プロの音声の専門家のいない会場では危険である。どちらにも一長一短がある。慎重に状況を考えて判断したい。


>>次回、「本番での心構え 」に続く


*放送大学では2009年度放送開始の『市民と社会を生きるために~実践のすすめ~』というラジオ番組を制作中です。その中で高橋は第12回「論文の書き方」と第13回「プレゼンテーション」を担当予定です。ここにアップしたのは放送教材を補完するテキスト(印刷教材)の草稿です。