10時過ぎにホテルをチェック・アウトする。思いのほか時間がかかる。日本への国際電話4本に80元(1200円ほど)の請求が来る。10時35分頃ホテル発、11時に成都空港着、一昨日より落ち着いた感じ。空港での放送も再開されている。一昨日に空港であった日本人と再会する。帰国できそうだというので表情が緩んでいる。それは、こちらも同じだろうか。関西テレビの取材班が来ている。地震発生時にビデオ撮影をした人を探している。11時半にチェックイン開始、ビジネス・クラス・ラウンジが地震の影響で閉鎖との説明があった。待合室でNHKの記者に声をかけられる。撮影用の機材を運んできて、一時帰国するという。NHKは、イトーヨーカ堂の防犯カメラの映像など地震発生時の映像を入手したらしい。


出発予定時刻の1時過ぎにバスで飛行機へ移動する。移動式の乗降ゲートは、地震で故障なのか。最初は日本までの客だけを載せたのか、機内はガラガラだった。やがて北京までのお客さんが乗り込んでくる。そして携帯電話で大きな声で話している。離陸するまでなら問題はないのだろうか。ところが、なかなか離陸しない。午後3時に食事が出る。飛行中でなくとも、機内で食べれば機内食だろう。一昨日は空港のロビーで立って機内食を食べたのに比べると格段の前進か。しかし、もう2時間以上も離陸が遅れている。北京経由で成田の予定到着時刻が午後9時ごろだから、あまり遅くなると日本への到着は成田空港の閉鎖時刻を過ぎてしまいそう。たしか深夜12時だったか。となると成田に着陸できなくて、伊丹か関空に着陸するのか。あるいは今夜は北京泊となるのか?ドラマは続いている。午後4時45分、離陸許可待ちが続いている。10機が待っていて順番待ちと言う。だが離陸している飛行機などない。乗務員は次の食事の準備に入っている。長期戦になりそうだ。シートに電源がないので、使っているパソコンも2時間ほどで使えなくなりそう。


午後5時05分、機が滑走路に移動する。午後5時20分離陸、乗客乗務員の顔に笑みが思わず浮かぶ。深く思い出を刻んだ成都が、たちまち雲の下に消える。雲を突き抜けると機内に陽光が差し込んでくる。成都と北京間の距離は1680km、飛行時間は2時間10分、到着時間は午後7時半との機内放送がある。さて、その次はどうなるのか?


7時35分に北京空港に着陸、しかしながら、この時間から成田に飛んでも到着時には成田空港は営業時間外で着陸できない。主要国の首都の空港で、24時間営業できない空港というのも珍しい。日本が世界の潮流から遅れてゆく姿を象徴している。フライトはキャンセル、荷物を持ってエア・チャイナ(中国国際航空)の用意したホテルに宿泊との発表がある。しかし、荷物がなかなか出てこない。荷物を置いてホテルに行かないかとの誘いがあるが、東京行きの乗客の大半は拒否、荷物を待つ。8時45分くらいにやっと荷物が台に現れる。オリンピックを前に成田空港が田舎に見えるほどの立派な空港ができたものの、人の対応には不十分さが残る。「仏作って魂入れず」との言葉を思い出す。これでオリンピックは大丈夫だろうかとの声が上がる。エア・チャイナは全日空やシンガポール航空と同じ系列のスター・アライアンスに属しているが、とても他のメジャーな航空会社のレベルには届いていない。中国という巨大な成長市場に参入するために、他の航空会社はエア・チャイナをメンバーにせざるを得なかったのか。


部屋は二人一部屋との事、ビジネス・クラスなのにと交渉すると、フロントでビジネスの搭乗券を見せれば一人一部屋にするとの説明がある。バスで40分ほど空港から離れた花水湾という聞いたこともない温泉センターのような場所に連れてゆかれる。しかし、フロントでは一人部屋なら150元(2250円)を払えとの請求がある。不当ではあるが、小額なので取り合えず支払う。部屋は3階で、今度はエレベーターが止まっているのではなく、そもそも存在しない。部屋に冷蔵庫はあるが、ミネラル・ウォーターを含め、何も入っていない。電話があったので、日本に電話しようとするが、通じない。既に夜の11時を時計は回る。


カフェテリアが開いているので、簡単な食事を取る。さすがに、これくらいは航空会社が手配していたようだ。冷蔵ケースにビールが見えたので、冷えたビールを注文したが、ケースの鍵を持った担当者が既に帰宅していて、冷えたビールは見るだけであった。1本8元(120円)の人肌のビールで食事を流し込む。カフェテリアに置いてあったミネラル・ウォーターのペット・ボトルを部屋に持ち出そうとした客がいたが、従業員が金を払えと阻止する。ホテルには水があって当然であり、それに金を取るのは許せないと客が反論する。さらに、本来ならばエア・チャイナの負担すべき費用ではないかとの議論も加わる。押し問答が続く。さすがに長い一日で、皆が不機嫌になってきたのか。同時に、こんな機会はめったにないと議論を楽しんでいる元気な方もいらっしゃる。確かに地震以来、短い時間で多くを体験した。体験過剰なくらいである。そんな思いで、この押し問答を横に見ながら部屋に戻る。シャワーを浴びて、ベッドに入る。長い一日がやっと終わった。