宮廻正明展
行間のよみ
1月7日、宮廻正明展「行間のよみ」を東京藝術大学美術館で見た。衝撃的だった。これが日本画かと疑うような作品ばかりだった。午後1時から約40分間、同大教授を定年退職した宮廻氏自身によるギャラリー・トークがあった。展示作品を回りながら、描いた時の状況や背景を解説してくれた。
日本画はまず裏を描く
それによると、日本画と洋画は接着剤が違うだけ。日本画は膠だが、洋画は油、だから日本画は紙を使い、洋画は布を使うのだという。日本画はまず薄い日本紙に裏を描く。描いてから十数日間放置しておくと、表に出てくる。そこへ薄い絹布を貼って色を描く。裏で7割、表で2割。決して完成させず1割は見る人に任せる。裏とは「心」ということ。絵画は3次元を2次元に描くものだが、日本画は逆に2次元から3次元、4次元の世界を描く。そのため平面ではなくタテの深さがある。次元や時空を超えるのが日本画だという。
見えないものをデッサン
宮廻さんの師・平山郁夫さんは「私の後には草も生えない」と言っていた。それは草を360度、左右だけではなく空からも地面からも、あらゆる方向からデッサンしており、1本の草をデッサンするのに数百枚も描く。そのデッサンを基に絵を描いているという。宮廻さんのデッサンもその通りだが、それ以上に、彼は見えないものさえデッサンしている。例えば橋を見た時、その上流の橋も「こうあるはずだ」とデッサンする。同行したカメラマンは「先生のデッサンはカメラに映りません」と言ったという。
コンテンポラリー
日本画は本来、花鳥風月を描くものだが宮廻さんは、あえてトラックや自転車、競馬を描いた。しかも競馬はコンピュータを駆使して部屋の壁面全体に映像として動かしてみせる。伝統の縦糸に、横糸の現代を反映して描かないと日本画の将来は開けない。写実を描いたファインアートは世界に受け入れられず、創造的なコンテンポラリーでなければ世界的評価は得られないという。彼は嗅覚にも訴え、会場にかすかに香りが漂う。
クローン文化財
宮廻さんは、3Dプリンターを駆使して「クローン文化財」にも挑戦している。美術館の別館に行くと、法隆寺の釈迦三尊像が正面に再現されており、ピカソやゴッホの絵が本物そっくりに飾られている。新たな芸術を創造しているのだ。
心で見る
宮廻さんは「行間のよみ」について「行間の間には 音にならない意味がある 目には見えない音がある」と言う。それは絵の裏から沁み(心に染みる)いずるものなのだろう。