過労死
長時間労働だけか
電通の女性社員が過労自殺したり、NHKの女性記者が過労死したり、長時間労働が問題になっている。ブラック企業やお役所の「サービス残業」が指弾されるようになった。そうした輿論を受けて、安倍晋三首相も「長時間労働の慣行を断ち切る」方向へ舵を切るようだ。結構なことだ。ただ、ヂヂは過労死や過労自殺について、長時間労働の面だけから見ることには疑問を持っている。
過労死記者はゴマンといる
NHK記者は1カ月の時間外労働が200時間を超えたという。しかし、日本中にそんな取材記者はゴロゴロいる。大事件や大きなニュースに取り組んでいる記者たちは1日3~5時間しか眠らない生活を続け、その間休みも取らない。アメリカ・ボストンの小さな地方紙がカトリック教会のタブーに挑んだスクープの記録「スポットライト」はピュリッツァー賞を受賞、映画化されアカデミー賞の作品賞と脚本賞も取った。この中で女性記者は夫や子供のいる家に何日も帰れず、ホテル住まいで資料をあさる。どこの国でもこうした特ダネ記者はいるが、彼らが過労死したという話は聞かない。まして使命感から過酷な仕事をしている人で過労自殺なんて皆無であろう。
企業戦士は多い
取材記者だけではない。「欧米に追い付け追い越せ」を合言葉に日本が高度成長を果たしてきた時期にはどこの企業でも長時間労働は当たり前だった。現在でも大きなプロジェクトや研究開発に携わっている人たちは、やはり何カ月も休みなしでやっている。予算編成期の財務省官僚も半月ぐらい休みなしだ。この人たちの過労死は聞かない。知人の医者は研修医時代に15日も宿直があった。翌日は外来を担当していたから、休みはないに等しい。正に医者はブラック企業である。
鬼十則
電通には通称「鬼十則」と呼ばれる有名な言葉がある。4代目社長・吉田秀雄によって1951年につくられた「電通マン」の行動規範となった。電通では過労自殺が問題化されてから、「鬼十則」を言わないようにしているらしい。しかし、この中には「大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする」「 難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある」「 取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」など、仕事をする上で「なるほど」と納得できる言葉が沢山ある。
納得するか強制されるか
問題は、これに納得して自分から進んでやろうとするのか、自分は納得していないのに、上司や先輩から強制されるかの違いであろう。電通の女性社員は自殺した直前1ヵ月の残業時間は105時間、その2ヵ月前の残業時間は40時間と労基署に認定された。実際はそれよりずっと多いようだが、その程度で自殺するとは考えられない。要は仕事に取り組む姿勢や職場のパワハラが本当の原因ではないかと考えられる。
ワタミの社長
居酒屋ワタミの渡邊美樹社長は「仕事にやりがいを持て」と盛んに教育しているらしい。しかも「使う! 論語」という著作まで出してそれを正当化しているが、その本を読むと、論語を自分の都合のいいように解釈しているだけ。もちろん、将来独立して居酒屋を経営したい人はどんな苦痛にも耐えられるだろうが、時給ナニガシの金さえもらえてばいいバイトの人たちに居酒屋商売に「やりがいを持て」と強制してもムリだ。それを強調すればするほど、やらされる方は苦痛を感じ、サービス残業を強制的にやらされる感覚で、「ブラック企業」のレッテルを貼りたくなる。