映画「十年」 | 歴史の裏

映画「十年」

香港の未来を暗示

 

 日本記者クラブで香港映画「十年」の試写会があった(722日公開)。映画が制作された2015年から10年後の香港の未来を描いている。5人の若手監督による5本の短編作品。製作費わずか750万円。9200万円の興行収入を記録。香港のアカデミー賞と言われる香港金像賞を受賞した。

 20151217日、1館で上映開始されると、口コミで動員を伸ばし、週間興行収入で「スターウォーズ/フォースの覚醒」を破り、その後、上映館を増やす。中国からの観光客や移民、雨傘革命、行政長官の選挙など、揺れ続ける≪香港の十年後を問う≫

 

習主席の演説

1997年に英国から中国に返還されて20周年を迎え、71日記念式典があった。訪問中の習近平国家主席は「香港の『1国2制度』(50年間保障されることになっている)は世界が認める成功を収めた」と強調し、今後も続けることを言明しつつ、「中央の権力と香港基本法に挑戦する行動はボトムライン(越えてはならない線)に抵触しており、決して許さない。安全を脅かす行為は断じて許さない」と、香港でくすぶる独立の動きに強硬姿勢で臨む方針を示した。

 

5話のオムニバス

映画「十年」は、習演説が示唆する香港の未来を暗示していると思われる。「香港独立」の臭いを感じた中国政府は、映画館や映画祭での上映禁止だけでなく、中国内からのアクセスは徹底的にシャットアウト。ほとんどの国民が見ていない中、風評が独り歩きした。

1話「エキストラ」 安全条例を作りたい中国政府はメーデーでにぎわっている集会で民主派2党の男女党首暗殺の企てをする。暗殺を演ずるフリーターの貧しい2人は果たして……

2話「冬のセミ」 2人の男女が身の回りの物を標本にしている。壊れた家のレンガや街で集めた日用品など。2025年の香港。現在存在する生物は870万種。かつて地球上に存在した生物の2%にしか過ぎない。失われゆく記憶を標本として残すため、男は自分を標本にしてほしいと頼み、女の手によって準備が進められた……

3話「方言」 普通話の普及政策で、タクシー運転手に試験が課せられることになった。広東語しか話せない彼にとって、それは至難の業。客も満足に乗せられない。中学生になろうとする子供は学校で普通話で学ぶ。親子の会話もままならない。試験に合格しなければタクシーを続けられない。

4話「焼身自殺者」 2025年のある朝、イギリス領事館前で焼身自殺があった。身元も分からない。記憶映像を使用したドキュメンタリタッチで「市民に対し警察が催涙弾を使用したことを想起させる演出。

5話「地元産の卵」 2025年、香港最後の養鶏場が閉鎖される。父の時代から仕入れてきたスーパーの店先に表示された「地元産の卵」という言葉がよくないと少年団が写真を撮っていく。団長は団員に諜報活動をさせ、親にも通知しない。禁書を扱っている書店を調べたりする、紅衛兵をイメージさせる話。