良純未来図
台本通りでなければダメ?
私の通っている太極拳教室がテレビの取材を受けた。テレビ朝日のモーニングバード、月曜日の「良純未来図」コーナー。石原良純さんは53歳。第二の人生をどう生きるかを考える「おとな世代の新しい生きがい」を探しに、その道のエキスパートを訪ね、自ら体験しながら魅力を発見し、その世界がなぜ魅力的なのかを調査して視聴者にプレゼントするという狙いらしい。
現場の混乱
放送は4月27日朝。コーナーは9時過ぎに始まるという。取材を受けたのは20日。品川区武術太極拳連盟の紹介で、私たちの教室に白羽の矢が立ったようだ。取材日の1週間前の13日に、同連盟の役員が付き添ってディレクターが事前打ち合わせに来て、我々のけいこ風景を約2時間視察した。27日は良純さんが10時までの生放送を終わってから駆け付けたが、撮影がなかなか始まらない。教室の講師を連れ出して延々と話し合っている。後で先生に聞いたところ、ディレクターと良純さんの意見が合わないようだった。良純さんはぶっつけ本番のようにやりたいのに、ディレクターは台本通り進めたい意向。30分ぐらいたってやっと撮影が始まったものの、撮影中も2人の間でもめている。
わが教室はシルバー年代が大半だから、各流派が統一した「簡化24式」という初歩の太極拳を中心にやっているが、扇を使う「太極扇」も習っている。しかし、ディレクターは剣を使う「太極剣」をやらせようとする。結局、先生は良純さんに24式に加え太極剣の基礎も教えることになり、我々がやっている太極扇はやれなかった。これにも良純さんは抵抗していたが、ディレクターは「台本にあります」と言ってポーズをとらせていた。先生は北京で開かれた大会の外国人部門(中国人と外国人はレベルが違うので部門を分けている)の年代別で優勝している。ディレクターはそのメダルを持たせて撮影しようとするが、良純さんが「後で撮ればいいじゃないか」と言って、これは良純さんの勝ち。
太極拳は武術から離れた体操
わが教室を紹介した役員は、組織の名称が「品川区武術太極拳連盟」とあるので、「ディレクターは武術にこだわったようだ」と解説する。しかも、ディレクターはテレビ局下請けの製作会社のスタッフなので、台本に背くことはできないのだという。実におかしな話だ。コーナーは約17分だという。放送まで1週間ある。先入観に基づいた台本通りに撮影するのではなく、撮影はありのままに撮っておいて編集すれば実態に合う映像になる。
番組の趣旨は良純さんが街中に出て、老人がはまっている習い事を発見し、それを自ら体験して新たなライフスタイルを探るというコーナー。各地の太極拳組織はたいてい「武術」という名称を冠しているが、現実に行われている「太極拳」は武術をアレンジした「太極拳」体操。元々太極拳は少林寺拳法と同じで武術がルーツだが、20世紀初頭に誰でもできる、現在のような体操が考案された。緩やかな動きによって内筋が鍛えられることから、「結核を治す体操」として中国全土に広まった。今では中国の都市へ行くと公園で太極拳をやっている人たちに出くわす。ディレクター(というより台本を書いた上司)はそういう背景を知らず「武術」にこだわった結果、巷で流行っている太極拳の実際とは違う実態を紹介することになりはしないかと危惧している。
なお、品川区は衆院選の東京3区。良純さんの弟宏高さんの地盤である。