民間事故調Ⅱ
「ダメ菅」キャンペーン
福島原発事故独立検証委員会(通称・民間事故調)の報告書に記載された当時の菅直人首相の行動について「政府トップが現場対応に介入することに伴うリスクについては、重い教訓として共有されるべきだ」と特記。役所がそれぞれ機能しているのに、トップが頭越しに指示を出すことが「混乱や摩擦のもとになった」と批判している、との報道を見て、私は違和感をもった。役所が機能しているなら、トップがわざわざ、緊急搬送すべきバッテリーのサイズや重さまで聞くことはないだろう。役人から必要な情報が入っていないから、あえてトップが自ら確認したのではないか、と疑問を感じた。報告書の記述にツイッターで反論した下村健一内閣審議官の記述を見て、なるほどと思った。報告書が下村さんの談話を取り違え、私の予想通り役所が必要な機能を果たしていなかったのだ。ここに私は意図的なものを感じてしまう。
菅さんがリーダーとして優れているとは思えないし、イライラするほど出来が悪い総理大臣だとは思う。しかし、その前後の人たちと比べれば遜色はない。前の人は普天間基地でふらふらし、その前の人は前政権を「フシュウ」して「ミゾウユウ」の人だったし、その前の人は「あなたとは違う」と無責任に政権を投げ出し、さらにその前の人は「小沢さんが会ってくれないから」とダダッ子のような理由で辞めた。しかも、誰1人、その責任をとっていない。菅さんの後の人は選挙のマニフェストにも書いてなかった消費税増税に「政治生命を賭ける」と息巻いて政治を混乱に陥れた。それらに比べれば菅さんはましな方だ、というより日本の原発政策を転換させた功績は後世から大きく評価されるだろう。
菅さんが「撤退はまかりならん」と東京電力へ怒鳴り込んでいなかったたら、東日本は今の福島県よりひどい状態になっていただろう。いや、日本列島に人が住めたかどうか。それ以上に世界中が放射能汚染されていた可能性がある。また、東日本大震災発生時にヘリコプターで上空から現地視察したことをマスコミは指揮官が対策本部を離れたと批判したが、最高指揮官が現地の状況をいち早く把握することは以後の指揮を取る上で役立ったはずである。また、菅さんがいなかったら、東海大地震発生時に最も危険な中部電力浜岡原発の停止はできなかったに違いない。
政官業の陰謀とマスコミ便乗
これほどの功績があるのに、マスコミは「ダメ菅」のレッテルを貼り続けた。なぜ、菅さんが総理大臣としてちゃんとした指揮を取れなかったのかをきちんと検証する必要がある。
その遠因は菅さんが厚生大臣時代、役人が隠していたエイズの資料を出させたことであろう。それまでもたれ合ってきた政官業の身内意識が壊されてしまう危機感を抱いたに違いない。菅さんはそうした日本独特の伝統の中で間違って誕生してしまったリーダーだった。「市民運動上がりで門地も経歴も定かでないヤツに任せたら何をするか分からない。そんなヤツに総理大臣をやらせておくわけにはいかない」という政官業の根強い忌避感が事あるごと「菅おろし」へと動き、おっちょこちょいのマスコミがそのキャンペーに踊らされたのだろう。
未曾有(ミゾウユウではない)の地震・津波と原発事故発生で、そうした反菅グループは「ヤマネコスト」を決め込み、「菅失策」を画したと推測できる。そこには大震災や原発事故被災者への思いは感じられない。自民党の谷垣禎一総裁が言ったように、菅を失敗させて引きずり下ろしさえすれば日本はすべてうまく行くとのパブリシティを密かに展開し、マスコミが乗ってしまったのだ。