イージス艦衝突Ⅱ | 歴史の裏

イージス艦衝突Ⅱ

   隠蔽?

◇漁船視認の時刻

 イージス艦と漁船の衝突では、防衛相への報告が1時間半後、首相への報告は2時間後という自衛隊の危機管理への意識の低さが露呈された。これで万一に備えられるのだろうか。そればかりではない。衝突漁船に気づいた時刻に隠蔽があったのではないかという疑惑が浮かび上がった。

 イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突したのは2月19日午前4時7分とされている。その日午後5時からの自民党国防部会で石破防衛相は漁船発見時刻を衝突の「2分前」と報告した。午後11時の海幕防衛部長による記者会見でも「2分前」だった。ところが、午後4時18分には、「2分前」を視認した同じ見張員が「12分前」に「漁船を3時55(12分前)に確認」したことを、「あたご」にいた護衛艦隊幕僚長から海幕へファックスで報告している。

その情報は石破氏が国防部会に発表するときには間に合わなかったという。情報を得ていながら、なぜ発表をストップ出来なかったのか。石破氏に伝わったのは4時間以上経った午後8時半。そして、これを石破氏が自民党国防部会へ報告したのは20時間以上経った20日午後8時。情報を隠蔽して操作したと疑われても仕方ないだろう。

◇隠蔽密議?

石破氏は22日の衆院安全保障委員会で「隠蔽があるとしたら、(防衛省の)国民に対する挑戦だ。文民統制を預かる者として責任を取るのは当然」と述べ、情報操作や隠蔽があったら責任をとると明言していた。ところが、26日の委員会では、不明者の家族から「絶対辞めるな。原因究明と再発防止をあんたがやらなければ」と言われたと述べ、辞める気はないことを強調した。

これで筋書きが読めた。石破氏は「12分前」の公表を遅らせたことを捜査機関の海上保安庁との調整があったからとし、隠蔽ではないと強弁した。それなら、「2分前」は海上保安庁と調整せず勝手に発表してもいいのか。それで分かった! 隠蔽があったかどうかを判断するのは、石破氏自身なのだから、「隠蔽」などあり得ようがない。だから、「責任をとる」と大見得を切ったのだ。

事故6時間後の19日午前10時には、事故直前の当直士官だった「あたご」航海長を、「あたご」からヘリコプターで海幕へ運び、約1時間にわたって事情を聴いた。石破氏も防衛事務次官、統合幕僚長、海上幕僚長の4人で密かに事情を聴いている。海上保安庁には「けが人を運ぶと」ウソをついていた。

大型トレーラーが自転車をはねて運転者を死なせた事故の場合、捜査している警察の目を盗んで、事故直前まで運転していたトレーラーの運転主任を運行会社が連れ去ったことと同じである。事故の当事者を勝手に拉致したのだから、犯人蔵匿、証拠隠滅であり、刑事訴訟法によれば逮捕すべきケースであるが、海上保安庁にはそんな度胸はない。

7700トンもある大型戦艦「あたご」は逆進をかけても急には止まれないから、「2分前」なら衝突の回避は不可能だ。「12分前」となると、事故直前の当直士官の責任は免れない。4人の密議で「2分前」が固まっていたわけだ。その後の国防部会や、記者会見はいわば茶番劇にすぎない。いま、石破氏や自衛隊幹部は「12分前」が外へ出てしまったことにホゾをかんでいるんだろう。

20年前の1988年7月に起きた潜水艦「なだしお」と釣り船の衝突事故では、「なだしお」が航海日誌を改竄して、衝突時刻を2分遅らせた。過去に模範例があるのだから、それに見習わない手はない。だから、「あたご」の航跡記録も残っていない。

◇現場が悪い

事故原因は究明中なのに、早くも「見張員は漁船が避けると思っていた」との情報が流され、海自OBが「あり得ない」と自衛官の士気がたるんでいるとコメントしている。「あり得ない」というのは正にその通りで、見張員は目にしたものを「○度の方向に緑の灯火」などすべて口に出し、それを伝令が復唱して当直士官へ伝え、当直士官の判断で変針するか、減速するかなどを決める。見張員が目にしたものを勝手に自分の判断で口に出さないということは、システム上あり得ない。

艦長が仮眠していたことも問題にしているが、艦長は常に艦橋にいなければならないということはない。24時間勤務だから、夜中に就寝しているのは当然である。入港が迫っている上、漁船の通航が激しい房総沖だから、そろそろ起きて艦橋に立つべき時刻ではあったが、艦長の操船は入出港時だけで、それ以外は当直士官が責任を持って操船することになっている。

原因を現場の自衛官の士気のせいにして幹部は逃げようという情報操作がすでに始まっているのだ。