文化とは | 歴史の裏

文化とは

文化の違い

 「東北は熊襲の産地。文化程度も極めて低い」。1988年に、サントリーの佐治敬三社長(当時)がこんな発言をして、東北の人の怒りを買った。蝦夷と熊襲を取り違える「文化程度の低さ」は別にしても、佐治発言は代表的経済人でさえ「文化」の意味を十分に理解していないことを示している。

 佐治氏は「文化」を芸術、経済など狭い意味で使ったようだが、「文化」はそんな限定的意味ではない。人類学の父と呼ばれたE・タイラーは「文化もしくは文明とは、知識・信仰・芸術・道徳・法律・習慣その他、人間が社会の成員として獲得したあらゆる能力や習性の複合的全体である」と規定している。要するに「文化」は、人間の共同体がつむぎだすものの総体といってよい。

 文化と文明の違いは、ドイツのA・ヴェーバー、アメリカのR・M・マッキーヴァーなどの社会学者によると、文明が技術的・累積的・非人格的・客観的であるのに対し、文化は規範的・非累積的・人格的・主観的であるという。技術的な文明が国際的に容易に借用され伝搬し得るのに対し、文化は民族その他の文化共同体と内面的に結合して、運命を共にする傾向を持つ。だから、文明が発達すれば、文化が高くなるとは限らない。それは、科学・技術が発達して人間が機械に使われるのと、自然と共生して自由に生活するのと、どちらが文化的生活かを考えれば、すぐ理解できよう。文明人が文化程度が高く、未開人が文化程度が低いなどとはいえないのだ。

 人は自分が持っているものを他人が持っていないと、馬鹿にするくせがある。だが、自分が持っていないものを他人が持っていることには気づかない。「文化」は言葉を換えれば、生き方の違いともいえよう。だから、文化には違いはあるが高低はない。他人、特に外国人と接する時、このことに気づかなければ、とんでもない行き違いを生み、それが摩擦の原因となる。