近所に「ヒラヤスさん」 という女性がいた。

 

「ヒラヤスさん」は 


いつも髪の毛をカールさせて

 

赤い口紅、赤いハイヒール、赤いマニキュア。

 

素敵なお洋服を着て 素敵なバッグを持っていた。

 

いつ出会っても キチンとお洒落をしてる人だった。

 

だけど こんな田舎では ちょっと浮いて見えたし

 

少し変わり者のような扱いをされていたのかもしれないと今になっては思う。

 

 

小学生の頃 駅前の塾に 通っていた私は

 

帰りのバスで 時々 仕事帰りの 「ヒラヤスさん」と 遭遇した。

 

 

「こんばんわ。えらいね。こんな時間まで」なんて 

 

毎回声をかけて 挨拶をしてくれたけど、

 

小学生の私は 派手な「ヒラヤスさん」を 

 

少し警戒しながら会釈して、黙ってうなづいた。

 

中学、高校になっても 時々バスに乗った私は

 

やっぱり帰り道に 「ヒラヤスさん」に 遭遇した。

 

好奇心も旺盛になってた私は 

少しずつ会話をするようになっていった。

 

窓の外が 夜になっていく バスの中で

小さく色んな話を した。

 

ある日、「ヒラヤスさん」は 私の手相を見てくれた。

 

私の手相には

100万人に1人といわれる珍しい相があって

それを見て とても感心してくれた。

 

でも 私が嬉しかったのは、

「あなたの手は器用な手ね。すっと長い中指は器用な証拠よ。」と手を撫でてくれた。

「美容師になりたい」と話すと

「ぴったりだねぇ。頑張って」っと 笑って

「美容師になったら、してもらわなきゃねー」って言ってくれたこと。

 

 

それから 何年かして 「ヒラヤスさん」は 亡くなった。

 

慌ててバスに乗ろうとして 道路を横着に渡って

 

車に轢かれた。

 

 

先日 近所のおばちゃんと「ヒラヤスさん」の話をした。

 

そのおばちゃんが教えてくれた 


「ヒラヤスさん」の言葉。

 

「わたしは赤色に支えられてるの。」

 

それを聞いて とてもびっくりした。

 

私は まさに 今この歳で 

 

「赤色に支えられている。」と 感じている。

 

あと数年で 40歳を迎える私は

 

顔も心も身体も、気を張っていないと

 

一瞬で崩れやすく なってしまった。

 

色んな事が危うくなってしまった 足元に

 

爪先立ちしててでも 

 

「綺麗になりたい」 と 思うのは

 

女性に産まれた 宿命だとも感じている。

 

まだ母親にも ならない私を 


「赤い口紅」が支えてくれている。

 

心残りは「ヒラヤスさん」の 髪の毛に触れられないことだ。

 

あの頃の「ヒラヤスさん」と同じ年頃になった私を また褒めてくれるのかな。

 

「器用な手ね」と笑って撫でてくれるのかな。

 

「赤色」と「バス」と 「ヒラヤスさん」。

 

 

TiCA