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真核生物の細胞内には、膜で囲まれた小さな部屋がたくさん存在します。各細胞小器官はそれぞれ固有の機能をもっており、その機能に必要なタンパク質が集合しています。1971年、米国ロックフェラー大学のブローベルは、「タンパク質中の特定のアミノ酸配列が、その細胞小器官へ行くのかを指定する情報として働く」というシグナル仮説を提唱し、証明しました。その後、さまざまな細胞小器官に移動するためのアミノ酸配列、すなわち「切符」が発見されました。1999年、ブローベルはこの業績が認められ、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
遺伝子情報であるDNAが存在する核と、その遺伝子情報がタンパク質として翻訳される細胞質は、角膜によって区別されています。核膜には、特定のタンパク質だけが通過できる、核膜孔という大きな出入り口が存在します。1984年に、細胞質から核に移動するためのシグナル(核局在化シグナル:NES)が発見されました。後者のタンパク質の核外移行の解析と理解には、レプトマイシン(reptomycin)という放線菌(streptomyces carbophilus)の代謝産物がとても重要な役割を果たしました。
レプトマイシンは、真菌に形成異常を誘導し、増殖を阻害する抗真菌抗生物質として、東京大学の浜本哲郎と別府輝彦らにより発見されました。核外移行シグナルは、エイズウィルスのRevというタンパク質などで最初に見つかりました。Revタンパク質は核から細胞質に移行することが知られており、エイズウィルスのRNAが核から細胞質に移行するために必要なタンパク質でした。ところが、レプトマイシンBを細胞に作用させるとRevタンパク質の核外移行が阻害されたのです。さらにレプトマイシンBは、Revだけでなく、核外移行シグナルをもつ他のタンパク質の核外移行も、酵母・動物細胞において阻害することが明らかになりました。
これらの実験結果は、真核生物が共通にもつ核外移行装置のどこかをレプトマイシンBが阻害し、CRM1が核外移行装置のどこかで機能していることを予想させるものでした。その後の解析から、CRM1は、核外移行シグナルを認識し、核外移行シグナルをもつタンパク質を核から細胞質に運ぶタンパク質であることが明らかになりました。レプトマイシンBはCMR1に強く結合することで、核外移行シグナル切符をもつタンパク質が本来座るべき席を奪っていたのです。
このように、レプトマイシンを用いた解析手法は、多くの生命現象の基礎となる核-細胞質関連タンパク質輸送の研究分野を大きく発展させました。また、レプトマイシンBの使用により核外移行シグナルをもつタンパク質の識別が簡単に行えるようになり、細胞周期や癌研究など多くの分野で利用されています。
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