遺伝子組み換え作物を巡る各国の状況 | 高橋翻訳事務所スタッフリレーブログ

高橋翻訳事務所スタッフリレーブログ

プロ翻訳家による丁寧な翻訳で海外・国内のホットな話題を翻訳家の視点で書き綴っております。

こんにちは。高橋翻訳事務所(http://goo.gl/25cZv)生物学翻訳担当の平井と申します。
医学翻訳 ・分子生物学翻訳 ・生化学翻訳遺伝子組み換え作物(GM作物)が日本や欧州で疎んじられる背景には合理的な理由があります。その一例が1989年にアメリカで起こった「昭和電工・トリプトファン事件」のような遺伝子組み換え製品事故の影響です。

トリプトファン(tryptophan)とは食物ではなく、アミノ酸の一つ。セロトニンやメラトニン(melatonin)といったタンパク質の生成にかかわり、不眠症(insomnia)やアルコール依存症などの治療薬剤の原料としても使用されています。通常何ら問題のないアミノ酸ですが、昭和電工事件では、これを遺伝子組み換えで生成する過程で問題が起きたのです。

同社が他者に提供したトリプトファンのうち、遺伝子組み換えで精製した製品の使用者5千人あまりに筋肉痛(muscle pain)や呼吸困難(dyspnea)を伴う好酸球増多・筋肉痛症候群という病気を引き起こしました。米食品安全局(FDA)の調査では、遺伝子組み換え自体というよりも、その精製過程における不純物の混入が問題だったと発表されました。しかし、この一件がその後消費者団体などを中心として、遺伝子組み換えに対する強い抵抗をもたらすことになります。

昭和電工事件は一企業の過ちという面もありますが、GM作物への不安はその安全性がすべて証明されていないという影響もあります。安全性の調査には短期と長期のものがあり、長期の安全性はまだ確認されていません。また、アレルギーの原因であるアレルゲンが発見されたという指摘もあります。

そしてより大局的に見れば、GM作物が意図せずしてほかの種への遺伝子伝播を招き、既存の生態系を壊すという指摘も強いです。実際、閉鎖系の実験場で栽培していたものが、風や虫などの介入でほかの場所に伝わり、予定外のGMが起きてしまったという例も報告されています。

食品は日常的に必要であり、さらに口で摂取するものであるため、その安全性には非常に警戒心が高まります。日本や欧州でそうした声が強く、アメリカからのGM作物輸入に警戒するのはもっともなことだといえるでしょう。

しかし、そこには政治的なからくりもあります。農業王国の欧州各国はアメリカからのGM作物の輸入制限をする一方で、自国の種苗会社やバイオ企業に対して積極的に投資しています。農業王国としては、アメリカからのGM作物を広げることは、特許料の収奪や自国産業の弱体化につながるからです。でも、そのへんの駆け引きは日本ではあまり行われていないようです。

医学翻訳 ・分子生物学翻訳 ・生化学翻訳コラム担当者紹介
大学や研究所で得た知識と経験を生かし、生命科学全般を対象に翻訳を手掛けております。最先端の技術内容に関する仕事が多いため、調査には十分な時間をかけた上で、読み手の立場を十分に配慮し、さらに原文のニュアンスや言葉のリズムを掴み、論理的で読みやすい翻訳文を提供できるよう努めています。
株式会社高橋翻訳事務所 
医学翻訳分子生物学翻訳生化学翻訳  担当:平井