カードの道草


慌てた。

財布をひもとく。

いつものカードが見当たらない。


まるで、ふと、全財産を失った気分だ。

残高、幾円か。

同時、お叱りの声がきこえくるような錯覚だ。


家では、大きな出費が待っていた。

そこへ、この不祥事。


次に、とにかく頭をフル回転して思いめぐらす。

あそこに置いたか。落としたか。

また、財布の中を見る。


なかなか落ち着けず、結局、元のレジへ向かうことにした。

ありません、との返事。ホントカナとチョット疑った。

何事もないように去り、途中の階下へ降りて、思い出したテーブルの上を探す。

何度も見渡す。

無いものはない。


しかし、諦めきれない。

また、思案に暮れる。

もう一度、購入した後からの道をたどることにする。

空しくも、同じ結果だ。


万事休すか、と思った瞬間、閃いた。

天佑なり。


お客さんの相談コーナー、サービスカウンターがあるではないか。

急いでエレベーターを駆け下り、早速、むきになって説明した。


こころよく応対してくれた。


私の算段はこうだ。

カードが出てくるとする。

手元のレシートを見せ、カードには同じ情報が記録されているはずで

私のものと確認できる。

レシートこそ証拠だ。


シメシメと思った。


しかし、まだカードは道に迷っている。


カムバック、マイ・カード。


帰宅後、その日に電話が鳴る。


明るい、爽やかな声で

カードが見つかりました。


天使の声のように聞こえた。

少し、大げさでも、そう思った。


一件落着。


姉から、さらなる追求は免れた。

もっとも、姉は寛大で、私の早とちりか。


では、今日は良い出来事として

記憶に留めておこう。



失うどころか、貴重な体験だった。

最近、つまずきに厭世的になっていた。

LOVE AGAIN !