『すべての夜を思いだす』★★★
『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』★★★★
『FEAST 狂宴』★★★
『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』★★★★★
『ロッタちゃん はじめてのおつかい』★★★
(満点は★★★★★)




今週、紹介する『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』は、鬼才ピーター・グリーナウェイ監督の過去4作品のリマスター版を特集上映。
本来は8本ですが、こちらはまとめて1本としました。
チケットは、もちろん1作品毎に必要となります。ご参考までに。
さぁ、今週は5本です!




『すべての夜を思いだす』
は、多摩ニュータウンを舞台にした3人の女性の物語。


知珠は仕事を辞め、ハローワークに通う女性。
今日は誕生日なのに、これといって何の予定もない知珠は、友人から届いた引っ越しを知らせる葉書を手に、友人宅を探すことに。
早苗はガスの検針員。
団地の家々を回って、住人とたわいもない会話をし、時に茶菓子をもらう日々。
すると、団地に一斉放送が入ります。ここに暮らす老男性がひとり、行方不明になっていると言うのです。
しばらくすると、身なりの説明に似たおじいちゃんを発見。声を掛けてみることに。
夏は大学生。
亡くなった元彼が撮った写真の引換券があり、写真店に行くと、「もう期限が切れていて、保存の義務がない」と言われてしまいます。それでも、倉庫を探してみると言ってくれたので、後日の返事を待つことに。
夏は友達の女性と待ち合わせて、地元の博物館へと向かいます。
まったく別の女性3人が、それぞれの思いを抱きながら、この団地に暮らしていたのです…。


日本の高度経済成長期に建てられた多くの団地。
それは郊外に多く、今では当時の華やかさは影を潜め、住民の高齢化と共に、空き部屋も増えていると言います。
住民が減れば、店も撤退。住環境が悪化していくのが“団地問題”。今は若者のアイデアで、活性化に成功しているところもあるようです。
と、書いてはきましたが、この映画は別に団地問題が題材ではなく、3人のまったく別の女性が主役の日常ドラマ。記憶の映画と言ってもいいようです。
これが商業映画デビューとなる清原惟監督も、幼少期に多摩ニュータウンに住んでいたそうで、そんな意味でも“記憶”の舞台なのでしょう。
映画は、何の前知識も入れずに観たほうがいいものと、監督の思いを知ってから観たほうがわかるものがあるかと思います。こちらは後者かな。監督のインタビュー記事を読んでからの鑑賞をお勧めしたいですね。
昼下がりにまったり過ごす、カフェのような感覚で観たい映画。女性の視点では、また違った感想があるかもしれない、そんな作品です。★3つ。





『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』は、ピーター・グリーナウェイ監督の過去の4作品の特集上映。


イギリス人監督のピーター・グリーナウェイ。
解説によれば、「英国アート映画の先駆者として、世界中でカルト的人気を誇る映画監督」で、現代の鬼才と呼ばれる映画監督やクリエイターに影響を与えたとあります。
1942年生まれで、幼少時からアートに関心を持ち、絵画を学ぶ一方で、映画にも興味があったそう。事実、画家としても活躍し、パリのルーブル美術館で企画展が開かれたほどの実力の持ち主だそうです。
そんな監督の作る映画ですから、映像へのこだわりは推して知るべし。ストーリーもかなり風変わりで、確かに“大好きか大嫌いかの二極”だと思います。
4作品、すべてを観させてもらいましたが、ボクは“大”は付かないけど“好き”でした。アブノーマルさが、美しさと同居している世界。そこに相当な皮肉も詰まっていて。
画家が一枚の絵に込めた様々な思いを、立体的に表現するとこうなるのかなと。そんな感じです。
今回上映の4作品は、英国式庭園殺人事件』(1982年)、『ZOO』(1985年)、『数に溺れて』(1988年)『プロスペローの本』(1991年)。
個々の内容は公式サイトに譲りますが、古めかしさはまったくなく、むしろ斬新ささえ感じました。
ちなみに、この4作品に共通するのは、マイケル・ナイマンが音楽を手掛けていること。
加えて、『プロスペローの本』の衣装は日本人のワダエミが担当しています。
2019年の大ヒットホラー『ミッドサマー』のアリ・アスター監督が、大きな影響を受けたというのも納得です。あの嫌悪感が好きな人には、特にオススメです。★4つ。





『FEAST 狂宴』は、フィリピンが舞台の社会派ドラマ。


市場に買い物に来た2組の家族。
一方は、貧しくも慎ましやかに生きる一家の、父マティアスと幼い娘。もう一方は、高級レストランを経営する、裕福な経営者アルフレッドと跡取り息子のラファエルです。
その帰り道で事故が起こります。
マティアスたちが乗ったトライシクルと、ラファエルが運転する車が衝突してしまったのです。
血まみれで倒れる父娘を見たアルフレッドは、自らが運転席に移り、ラファエルを助手席に座らせます。そう、アルフレッドは息子の罪を被ろうと偽装したのです。
事故を放置したまま店に戻ると、アルフレッドはラファエルに、病院に行って治療費を払ってくるように指示。ラファエルが知人と偽って病室を覗くと、マティアスは重体、娘は軽傷だと判明。治療費を払い、追加があれば言ってほしいと連絡先を病院に知らせます。
マティアスの意識は戻らず、妻のニータは金銭的な問題もあり、マティアスの生命維持装置を外すことを決意。3人の子どもが見守る中、マティアスは亡くなったのでした。
間もなく警察の捜査の手が伸び、アルフレッドは逮捕されます。
アルフレッドはラファエルに、「あの家族の面倒を見てやるんだぞ」と言い残し、収監されていったのです…。


フィリピンの暗部をえぐる、リアルな作品を世に送り出す監督として知られる、ブリランテ・メンドーサ監督作品。
あらすじを読んで、多少の違和感を感じませんか?
マティアスの死後、ニータは、アルフレッドが経営するレストランで、手厚い待遇のもと、働くことになります。
そう、善と悪、優しさと罪悪感、充足と後ろめたさなど、加害者家族と被害者家族の両方に、様々な行動と感情が入り乱れて存在いるのです。すごい悪でも、すごい善でもない。それも、貧富の差を大前提として。
この映画には、多くを料理のシーンが使われますが、カラフルな食材を使ったフィリピン料理。その“混ざる”旨さも、監督が提示するひとつのアイロニーなのかなと。
「この映画の結末は、あなたの心を炙り出す」
これが予告編の締めの言葉です。
その結末は、是非劇場でどうぞ。★3つ。





『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』は、音楽ドキュメンタリー。


1932年、米ジョージア州メイコンに生まれた、リトル・リチャード。本名リチャード・ウェイン・ペニマン。
“ロックンロールの創始者の一人”と呼ばれた彼の人生を追った、ドキュメンタリー映画です。
アフリカ系アメリカ人の両親のもとに生まれた、12人兄弟のひとり。その両親が信仰に厚く、音楽の道に進もうとしたこと、そして何より同性愛者であることに失望した父親との仲は絶望的となり、10代で家を出ます。
歌手の夢が叶ったのは1955年。スペシャルティ・レコードからメジャー・デビューを果たすと、デビュー曲「トゥッティ・フルッティ」が大ヒット。
今までに無いリズムと独特のシャウト、派手なピアノのパフォーマンスで、一躍スターの座に駆け上がると、次々とヒット曲を発表。
しかし、時代は人種差別が色濃く残っていた頃。
彼が始めた“ロックン・ロール”は、エルビス・プレスリーに代表されるように、次第に白人のものになっていきます。
それでも、真実は語られます。
ミック・ジャガーは「ロックンロールはリトル・リチャードが始めた」と言い、ポール・マッカートニーは、「僕が歌いながら叫ぶのはリトル・リチャードのスタイル」と語り、ジミ・ヘンドリックスは彼のバンドメンバーとしてギターを弾き、プリンスに至ってはルックスそのものが、まんまリトル・リチャードですから。
今で言う“おねえキャラ”で、決まり文句は「お黙り!(shut up!)」。破天荒な物言いで、TV番組などでも人気を博しますが、当時のアメリカですからね。時代の何歩も先を歩いていたことになります。
人種、宗教、家族、自身の性等、多くの悩みも抱えて生きてきたリトル・リチャード。2020年に87歳で亡くなりますが、彼が遺した偉大な足跡は、公式サイトのコメント欄に載せられた、数多くのビッグ・アーティストの言葉に集約されていると思います。
リトル・リチャードは知ってたけど、真のリトル・リチャードは知りませんでした。光と影。スターになるって、こういうことかなと。
伝記ものとして、すごい映画だと思います。満点!★5つ。





『ロッタちゃん はじめてのおつかい』は、2000年に日本で公開されたスウェーデン映画のリマスター版。


パパとママ、お兄ちゃん、お姉ちゃんと暮らすロッタちゃんは、5歳の女の子。
ある朝のこと、買い物に行こうと、ママがロッタちゃんを誘います。
ところが、ママが用意したのは大嫌いなセーター。なぜなら、このセーター、チクチクするんですね。
絶対に着ないと駄々をこねるロッタちゃんを置いて、ママはひとりで出掛けてしまいます。
ロッタちゃんはセーターをハサミで切り刻むと、家出を決意。行き先は、隣に住むベルイおばさんの家でした。
優しく迎えてくれたベルイおばさんでしたが、やっぱり寂しくなったロッタちゃん。さらに夜になると、真っ暗な窓の外が怖くなります。
そんな時、パパがやってきて、「ママが寂しいと泣いてるよ」と。それを聞いたロッタちゃんは、「仕方ないなぁ。帰ってあげるか」と、うれしそうに家に帰るのでした…。


まるで“小さなちびまる子ちゃん”?
スウェーデンでは国民的人気のキャラクターだそうで、日本でも映画はヒット。24年振りの再上映となります。
物語はオムニバス形式で、このあともドタバタ劇が続くのですが、ロッタちゃんの“相棒”は、ブタのぬいぐるみのバムセ。病気で寝ているベルイおばさんにパンを届けるついでに、ゴミも捨ててとママから頼まれたロッタちゃん。ところが、袋を間違えてパンとバムセ袋を街のごみ箱にポイっと捨ててしまったから、さぁ大変!
なんて、おっちょこちょいなところは“小さなサザエさん”(笑)。
ただ、親の教育が今風というか。きちんと大人として子どもを扱っていて、頭ごなしにキツく叱ったりはしないんですね。
1998年の制作とあったから、26年前?スウェーデンは進んでたんだなぁと。
ちなみに、映画はもう1本あります。タイトルは『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』。こちらは3月22日に公開となります。★3つ。


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