『神さま待って!お花が咲くから』★★★★
『ゴースト・トロピック』★★★★
『ストップ・メイキング・センス』★★★★
『ダム・マネー ウォール街を狙え!』★★★★
『Here』★★★★
(満点は★★★★★)




2月になりました。
1月はあっと言う間でしたか?それとも長く感じましたか?環境、状況によって、様々だと思います。
時の流れが、人々にプラスの作用を及ぼしてくれることを祈ります。
喜怒哀楽。感情開放も大切です。映画がそれに一役買ってくれるかもしれません。
さぁ、今週は5本です!




『神さま待って!お花が咲くから』は、実話をヒントにした物語。


森上翔華、11歳。広島県福山市に住む、小児ガンの患者です。入退院を繰り返しながら、自称“余命0年”と笑顔で語ります。
主治医の勧めで、小学6年生の1学期から学校に戻った翔華。しかし、クラスはどこかギクシャク。自信を持てない担任の新川先生。エリートを自認する野沢を中心としたグループが、なにかと翔華を目の敵にしてきます。
それでも翔華は笑顔を絶やしません。“ファンタジー”を信じて、生きる喜びを噛み締めながら毎日を過ごしていると、翔華の前向きさが、次第にクラス全体に広がっていくんですね。
しかし、再び病状は悪化。翔華は入院を余儀なくされるのでした…。


2019年1月に、12歳の若さで亡くなった、森上翔華さん。
彼女の、短くも濃い人生にヒントをもらって出来上がったという感動作です。
入院患者の中でもアイドル的存在だった翔華ちゃんの口癖は「ファンタジーじゃ!」。
19年のクリスマスには、彼女が病床で書いた絵本『そらまめかぞくのピクニック』が出版されていますが、これは看護士さんや、保育士さんたちの尽力によって実現したのだそう。これが映画化のきっかけになったというのですから、まさにファンタジーだよね、翔華ちゃん!
淡い恋も経験した翔華ちゃん。1日1日を大切に生きることを、観る人に教えてくれるはずです。★4つ。





『ゴースト・トロピック』は、ベルギーの新鋭、バス・ドゥヴォス監督が2019年に発表した長編3作目。


ベルギーのブリュッセルで、清掃の仕事に就いている、移民女性のハディージャ。
仕事を終え、帰宅しようと乗った最終電車で、疲れからか、彼女は寝過ごしてしまうんですね。
終着駅から娘のビラルに迎えに来てもらおうと電話をしますが、通じません。
駆け込んだショッピングセンターのATMでお金をおろそうとするも、残高不足。仕方なく歩いて帰ることを決意します。
寒空の下、愛犬と暮らすホームレス。
以前、家政婦として長く働いていた家。
ガソリンスタンドに併設された店の女主人。
そして、初めて見る、恋する娘の顔。
期せずして始まった深夜の徒歩が、ハディージャに新たな世界を見せるのでした…。


“真夜中の一期一会”というキャッチコピーが付いた作品。
移民女性が深夜の街を歩く、小さなロードムービーでもあります。
ベルギー出身のバス・ドゥヴォス監督は、1983年生まれ。公式サイトに「いま最も繊細で美しく、最も心震わせる映像を紡ぐ」とあるように、確かに個性的な映像表現が印象に残ります。
余韻を多く取るというか、そのままが長いというか。
陳腐な言葉ですみません(笑)。
ストーリーも、想像させることに重きを置く感じとでも言うのでしょうか。状況や表情から、観客が登場人物の心の中を拝察する楽しみがある。次に切り替わるまでが長いから、そこに思いを巡らせるための余地がある。感動のストーリーとかではないけれど、小さく心が揺さぶられる物語…。
ちなみに、このあと紹介する『Here』と同時上映です。
“百聞は一見にしかず”。きっと、新しいと感じると思います。★4つ。





『ストップ・メイキング・センス』は、アメリカを代表するロックバンドのひとつ、トーキング・ヘッズのライブ・ドキュメンタリー。


1974年、デイヴィッド・バーンを中心に結成された4人組ロックバンド、トーキング・ヘッズ。
91年の解散まで、その個性的なサウンドとビジュアルで、世界中の音楽ファンを魅了しました。
映画は、映像には評価の高いA24が監修した4Kレストア版。83年12月のハリウッド・バンテージ・シアターで行われた“伝説”のライブを収録し、インタビューはなく、客席も一切映さないというのがルールだったと言います。
デイヴィッド・バーンは、体以上に大きな“ビッグ・スーツ”がトレードマーク。これは日本の能楽からインスピレーションを取ったもの。この衣装に身を包み、全身を小刻みに震わせる“痙攣パフォーマンス”が特徴的なボーカリストです。
80年代といえば、MTVが一世を風靡。目に見える音楽がもてはやされた時代でもありました。そんな意味では、時代にフィットしたバンドのひとつとして捉えている向きも多いかと思いますが、トーキング・ヘッズの楽曲には、もっと深い魅力があります。
この手の音楽映画のいい点は、歌詞が訳詞としてテロップで流れてくるところ。英詞を音(おん)として聴き流しがちな我々日本人に、「こんなことを歌っていたのか」と、改めて歌詞の内容を教えてくれます。きっと、歌のクオリティが、一段上がって耳に届くはずです。
ライブでは、メンバーのソロ活動の過程から派生した、トム・トム・クラブもパフォーマンスを披露しています。
ちなみに、この映画のワールドプレミアのため、オリジナルメンバーが久々に集結。バンド結成50周年を祝ったそうです。
公式サイトで曲が聴けます。是非、開いてみて下さい。★4つ。





『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は、実話に基づくストーリー。


アメリカ・マサチューセッツ州に暮らすキース・ギルは、証券会社に勤める会社員。
SNSに自身のサイトを立ち上げ、自宅から株式動画の配信をしているキース。その姿は赤いハチマキに猫のTシャツ。“ローリング・キティ”と名乗る彼のサイトは、なかなかの人気を博していたのです。
コロナの閉塞感に覆われた2020年。キースが訴えたのは、大好きなゲームソフトの店舗販売会社であるゲームストップの株価があまりに過小評価されているということ。
実は、一部ファンドの富裕層がこの株を標的に、金儲けを企んでいたんですね。倒産したら、富裕層にまた金が行く。株価が上がれば、彼らのダメージは大きいと。
キースの言葉に共感した多くの個人投資家たちが、ゲームストップ社の株を購入。すると、2021年に株価は大暴騰。ファンドは大打撃を受けることになります。
しかし、うなるような資産を持つ富裕層が、そこで手をこまねいているはずもありません。
彼らは、個人の投資を“ダム・マネー(愚かな投資)”と罵り、損失回復のためにあらゆる策を練ってきます。
巨額の資金の前に、キースや個人投資家たちの思いは、潰されてしまうのでしょうか…。


一般市民vsウォール街の金融大富豪。そんな戦いの構図です。
ゲームストップ社の株が上がれば、一般の個人投資家は儲かる。でも、それは株を売って、利益を確定させた後のこと。スマホの画面上に出ている株価の数字なんて、一瞬にして下がるかもしれないわけで。
売りが進めば株価は下がる。もし個人投資家たちが一斉に売りに出たら、ゲームストップ社の株は大暴落。そうなったら、また一部の富豪がほくそ笑むことになる。でも、株価が上がった今、売れば利益は大きい…。
点のように散らばる個人投資家たちの心の揺れ具合も、この映画の見処のひとつです。
“蟻の一穴”のことわざ通り、アメリカ中が結束したこの出来事が、実話だというから面白いです。
日経平均も上がり、新NISAで投資熱が高まっている日本。あなたも観ておいたほうがいいかもしれませんョ。★4つ。





『Here』は、『ゴースト・トロピック』のバス・ドゥヴォス監督の最新作。


ルーマニアからベルギーに働きにきたシュテファンは、ブリュッセルで建設関係の仕事をしています。
仕事を辞め、故郷に帰ることを決めたシュテファンは、冷蔵庫の中を空にするため、自慢のスープを作り、お世話になった人たちに配って回っています。
シュテファンが自分の食事をテイクアウトしようと、小さな中華レストランに入ると、雨に濡れた女性が飛び込んできます。
彼女の名はシュシュ。どうやら、店主の親類のよう。髪を拭いて、店を手伝うシュシュ。
後日、シュテファンが森を散歩していると、シュシュとバッタリ再会するんですね。
実は、シュシュの本業は植物学者で、苔の研究をしていると言います。
「苔に注目する人は少ない。でも苔は生命力に溢れた小さな森なの」。
シュシュの言葉に、シュテファンは関心を抱くのでした…。


『ゴースト・トロピック』同様、バス・ドゥヴォス監督の独自の映像世界が広がります。
ルーマニア人の男性と、東洋系の女性のお話ですから、やはり前作と同じように、移民が主人公。これがベルギーの今ということなのでしょうか。
シュテファンがスープを持ってあちらこちらを回るという意味では、これまた小さなロードムービーです。
シュテファンとシュシュの出会いも、生命力溢れる“小さな森”なんじゃない?と、ふたりの未来に思いを馳せる、そんな映画です。
森の緑が持つ湿度や、人の心の潤いまでもが伝わってきます。是非、体感してみて下さい。★4つ。


Xは@hasetake36