『海街奇譚』★★★
『緑の夜』★★★
(満点は★★★★★)




今週紹介するのは、どちらも中国映画。
香港が中国に返還されて以降も、香港映画と中国映画は、厳密に言えば“別モノ”。たまに、製作国に“香港・中国”の表記もあったりして、その区分けはなかなか難しいものがあります。
単なる場所の違いだけではなく、制作意図やイデオロギーの差異もありますもんね。検閲の壁も高いと聞きますが、その辺についてはあまり明るくないので、グレーのままにさせて下さい(笑)。
さぁ、今週は2本です!




『海街奇譚』は、中国のアート・サスペンス。


売れない俳優のチューは、考え方の違いから姿を消した妻を捜すため、妻の故郷でもある小さな島を訪れます。
首から下げたカメラで写真を撮りながら、島を回るチュー。
妻に似た女性教師が教える島の小学校。チューは、先生に向けてシャッターを切ります。
夕刻、古ぼけたホテルの女主人に声を掛けられ、宿を決めると、人捜しならダンスホールに行くといいと教えられます。
クジラのネオンが灯るダンスホールを仕切るマネジャーの女性。この女性もまた妻に似ていました。
カブトガニの面を被って儀式をしながら練り歩く漁師の集団。無くなった仏像の頭を探す町長と、何かを知っている息子。漁に出た者を飲み込む呪われた海。8月5日で止まったままの日付。
そんなこの島で、3つの女性殺人事件が起きるのです…。


これが長編デビュー作というチャン・チー監督は、1987年生まれ。“中国の新たな才能”と評されているとか。
現在と過去、夢と現実、様々なものが、計算されて入り乱れ、観る者を不思議な世界観へと誘います。
ストレートに言うと、ストーリーを追おうとしても、よくわからないというか(笑)。そこに面白さがあるのでしょうね。
表現が違ったらごめんなさい。現代的手法を使った抽象画のような感じ?
それがこの映画を“アート・サスペンス”と言わせているのかもしれませんね。
本国では上映されていないとありましたが、映画大国になりつつある中国の今と未来を、体感できる1本かもしれません。★3つ。





『緑の夜』は、韓国を舞台にした中国映画。


中国から韓国にやってきたジン・シャは、韓国人男性と結婚。配偶者ビザを使い、夫とは別居という形でソウルに暮らしています。
仁川港の保安検査員として働くジン・シャ。そこに、緑色に髪を染めた若い女がやってきます。
すると、保安検査場の金属探知機が反応。不審に思い上司に告げると、「よく乗船する常連客だろ」と逆にたしなめられる始末。
緑の髪の女は怒ったのか、「乗るのはやめた」と出て行ってしまいます。
仕事が終わったジン・シャがバスに乗り遅れて途方に暮れていると、先程の緑の髪の女がジン・シャに声を掛けてきます。
タクシーに乗り、ジン・シャの家に向かうふたり。
緑の髪の女は、自分が違法薬物の運び人であることを告白するんですね。
会えば暴力をふるう夫に悩んでいたジン・シャも、配偶者ビザを放棄して永住権を得るには3500万ウォンという大金が必要です。
ここにふたりの女性を結ぶ、危うい糸が繋がったのでした…。


中国の人気俳優であるファン・ビンビンと、『梨泰院クラス』でブレイクした韓国人俳優のイ・ジュヨンの共演作。
「本編には性暴力描写が含まれます」との注意書きがあるように、ジン・シャはビザのために結婚をしたものの、夫から執拗に関係を迫られます。それを断ち切るにはお金が必要なんですね。
緑の髪の女も、中国にいる恋人からの頼みを断れずに運び屋をやっている。そこに求める愛がないこともわかっているはず。
孤独な女性ふたりの運命は…という映画です。
LGBTQ、偽装結婚、薬物、汚職など、現代の悩みや問題が詰め込まれています。
自由を得るためには、何かを犠牲にしなくてはならないのか。中国人監督のハン・シュアイのメガホン。女性監督ならではの視点で描かれた1本とも言えそうです。★3つ。


Xは@hasetake36