『KKKをぶっ飛ばせ!』★★

『ZAPPA』★★★
『パリ13区』★★★
『ベルイマン島にて』★★★★
(満点は★★★★★)




GWが近づいてきました。
もう予定は立てましたか?
まだ旅行はちょっと…という方、映画館に足を運んでみてはいかがです?
そもそも“ゴールデンウィーク”という言葉は、映画業界の造語ですからね。
このコラムで興味を持った作品があったら、大きなスクリーンで是非!
意外や映画館って、非日常を与えてくれる場所だと思いますョ。
さぁ、今週は4本です!




『KKKをぶっ飛ばせ!』は、TOCANA
の配給作品。


1971年、アメリカのテネシー州。
無実の罪で収監されていた、若き黒人男性のブランドンが、刑務所から脱獄。
兄のクラレンスと姉のアンジェラが、車に弟を乗せ、郊外にある今は廃墟となった牧場に身を潜めさせます。
ところが、そこは白人至上主義の秘密結社、KKKの活動拠点。
その一派は、KKKの中でも異常な集団で、黒人を捕らえては殺害し、その肉を食べていたのです。
白ずくめの男たちに襲われるブランドンたち。兄は命を奪われ、姉は暴行を受けます。
拘束からなんとか抜け出したブランドンは、姉を助け出すことに成功します。
そこから、姉弟ふたりの逆襲が始まったのです…。


TOCANAの映画は最近、人肉喰いばかり(笑)。
タイトルからちょっぴり期待し、ポスター画像からB級感を察知し。
いかにもTOCANAらしい作品だなと。
あ、もちろん、いい意味でですョ。だって、これが独自のカラー、オリジナリティですから。
“リベンジ・バイオレンス巨編”とのキャッチコピーがありましたが、マニア向けの、まさにそんな1本。
★の数は少ないですが、TOCANAの映画には、それが勲章になりつつあるんじゃないかと思い始めた、今日この頃です(笑)。★2つ。





『ZAPPA』は、アメリカの世界的人気ロック・アーティスト、フランク・ザッパの生涯を描いたドキュメンタリー。


1940年12月、アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアで生まれた、フランク・ヴィンセント・ザッパ。
12歳でドラムを始め、17歳でギターを持つと、自らのバンドを組んで演奏活動を始めます。
64年に、ザ・ソウル・ジャイアンツに加入。翌65年、バンド名をザ・マザーズ・オブ・インヴェンションに変え、MGMと契約。66年、アルバム『フリーク・アウト』でデビューを果たします。
68年にアルバム『ランピー・グレイヴィ』でソロ・デビュー。続く69年の『ホット・ラッツ』は、イギリスでヒット。70年に入ると自らのソロ活動に力を入れ始めます。
彼の音楽は、商業的観念とはほど遠く、スマッシュ・ヒットと言えば、娘のムーン・ザッパと共演した「Valley Girl」(82年)ぐらい。
何のために音楽をやるかというと、「自分が作曲した曲を自分で聴きたいからだ」と言います。
そのためには最高のミュージシャンを集め、その演奏を録音する必要がある。「聴きたかったら聴かせてあげるよ」。それがレコードだと言うのです。
ですよね?ファンの皆さん?(笑)。
というのも、ボクは80年代は専らダンス・ミュージック、ディスコ・サウンドを聴いていたので、フランク・ザッパの曲は、正直、あまり耳にしていませんでした。
ただ、印象には残っていて、ロン毛の変なロックをやるオジサンというイメージ(失礼!)。
でも、この伝記映画を観て、彼の深さというか、音楽に対する一貫した思いを知ることが出来ました。
映画の冒頭、彼の最後のライブ・ステージの映像が流れます。
1989年、当時のチェコスロバキアで“ビロード革命”が起き、民主化を勝ち取った記念に開かれたコンサートです。
そこでザッパは言うんですね。
「新しい変化に直面しても、チェコのユニークさは守っていって欲しい。他のものに変えるんじゃなく、他にはない国のままに」と。
まるで、自身の音楽スタイルそのものじゃないですか。
現地に入った時、本人も驚くほどの熱烈な歓迎を受けるのですが、チェコスロバキアの国民曰く、「フランク・ザッパは自由の象徴なんだ」と。
型にとらわれず、好きな音楽を思うがままに作曲し、演奏し、録音する。「評価は人がする」とよく言いますが、まさに自分の手を離れ、音楽が“人間”フランク・ザッパを投影し、遠く欧州の地で高く評価されたのですから、素晴らしいことですよね。
1993年12月4日没。
その生き方に、ファンでなくても感じ入る何かがあると思いますョ。是非、ご覧になってみて下さい。★3つ。





『パリ13区』は、モノクロで描かれた男女4人の恋物語。


パリ13区のアパルトメントに暮らす、台湾系フランス人のエミリー。
ルームシェアの相手を募集したところ、アフリカ系フランス人のカミーユがやってきます。
カミーユは高校教師をしている男性で、「さすがに男性は…」と断るエミリーでしたが、カミーユに押されてルームメイトになります。
すぐに身体の関係を持ち、彼に熱くなるエミリーに対し、カミーユはあくまでルームメイトと突き放します。
その頃、もう一度しっかり法律を学びたいと、大学に復学したノラという女性がいました。
年齢差もあって、なかなかクラスメートに馴染めずにいたノラでしたが、学生企画のパーティに、思い切って金のウィッグで参加したところ、ネットのポルノサイトで大人気のアンバー・スウィートというポルノスターと勘違いされ、噂が学内に広まってしまいます。
大学に行きづらくなったノラは、アンバー・スウィートと有料サイトで接触。すると、意外なことに、会話が心地いいではありませんか。それはアンバー・スウィートも同様でした。
エミリー、カミーユ、ノラ、アンバー・スウィート。4人の男女の人生の糸が、パリ13区の街で、絡まりあったり、ほどけたり。ドラマを作りながら、日々が過ぎていくのでした…。


パリの13区は、ヨーロッパらしい街並みがある一方で、中華街があったりと、アジア系の住民も多く、右岸の中では最も庶民的な地域だそう。
そこに暮らすミレニアル世代の若者たち。SNSで簡単に人と繋がることは出来るけれど、リアルの関係はなかなか築きづらいんだというテーマが、根底にあるようです。
あらすじとして、関係が始まる部分だけ書きましたが、カミーユが知人の不動産業を手伝っているところへ、ノラがアルバイトとしてやってきます。そして、ノラとカミーユも体を重ねる関係に。
カミーユが去り、コールセンターで働くエミリーは、刺激が欲しいし、出会いが欲しい。
モノクロで描かれると、日常が特別なものとしてストーリー性を増すんだなぁと。
映画『ベルファスト』もそうでしたもんね。
大胆な性描写があり、映倫区分はR18+です。
国や地域は違えど、若者の悩みは世界共通。いや、若者に限らず、大人だって、出会いは欲しいですもんね(笑)。
ちょっと刺激的な海外旅行気分でどうぞ。★3つ。





『ベルイマン島にて』は、女性映画監督ミア・ハンセン=ラブの半自伝的恋愛映画。


トニーとクリスは、年の離れたカップル。ふたりとも、映画監督です。
幼い娘がいましたが、パートナーとしての仲は倦怠期。脚本の執筆も進まない中、ふたりが尊敬するイングマール・ベルイマン監督が創作活動をし、終の住処にもした、スウェーデンのフォーレ島へとやって来ます。
ここにはベルイマン亡き後、彼の遺志に従い、世界中のアーティストやクリエイターに開放された“ベルイマン・エステート”という取り組みがあり、トニーとクリスもそれを利用して施設に滞在。フォーレ島は、ベルイマン島と呼ばれていたのです。
創作活動のためにと、少し離れた建物に寝泊まりするふたり。関係を前向きに見直すどころか、すれ違いが如実に露呈していきます。
監督としてのトニーに、畏怖すら感じているクリスは、自分の中に出来上がっている脚本をトニーに話し、結末がどうしても作れないとアドバイスを求めるのですが、トニーは「それはボクの役目じゃない」と突き放します。
風光明媚なベイルマン島は、ふたりにどんな未来の筋書きを授けるのでしょうか…。


バルト海にあるフォーレ島。
北欧の美しい景観が、まずは観る者に旅行気分を与えてくれます。
その一方で、破局を予感させる年の差カップルの物語ですから、心象風景にはどんよりした部分もあって。
途中、クリスの作りかけの脚本が、劇中劇として展開するのですが、これがこの映画のもうひとつの核になっているんですね。
友達の結婚式で再会してしまった、元彼との恋愛物語。
“一度目は早すぎて、二度目は遅すぎた”。そんな出会いのストーリー。
あるなぁという感じ(笑)。
ミア・ハンセン=ラブもベルイマン・エステートでフォーレ島に来たそう。実生活では、ふた回りも年上の男性との間に娘をもうけ、そして別れ…。
虚と実が入り交じる様は、最後の最後まで観る人を惑わせるかも。
でも人生って、そんなもんじゃないですか?ってお話です。
鑑賞後に振り返った時、確かに、映画らしい映画だなと。考えれば考えるほど、場面場面を深く掘り下げることが出来るはず。
ビターなチョコレートのような、大人の1本です。★4つ。