『永遠の1分。』★★
『ポゼッサー』★★★
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』★★★★
『MEMORIA メモリア』★★★
(満点は★★★★★)




ウクライナとロシアの戦争。
世界中に紛争地域はあれど、開戦直前までウクライナの人々は、「大丈夫。戦争にまではならないから」と、笑顔で普通の生活を送っていたのに…。
報道で流れる映像を見て、心が痛みます。あんな映像は、あくまでバーチャルで作られた映画の中だけて十分です。
とにかく早く戦闘が終わり、平穏が戻るようにと祈るばかりです。
さぁ、今週は4本です!




『永遠の1分。』は、大ヒット映画『カメラを止めるな!』のスタッフが作ったヒューマンドラマ。


アメリカ人映像ディレクターのスティーブは、ボスから、日本に行って東日本大震災のドキュメンタリーを撮ってくるよう命じられます。
コメディが得意なスティーブは、気乗りがしないまま、カメラマンのボブと来日。
雑誌の女性記者のマキと知り合ったスティーブたちは、震災復興の演劇を紹介され、自由に表現してもいいんだと理解するんですね。
ならば震災を題材に、コメディで人を勇気づけるような作品をと意気込むのですが、いざとなると、外国人が3.11をコメディ化なんてとんでもないと、協力者は出てこないどころか、週刊誌にもバッシングの記事が掲載されてしまいます。
頭を抱えるスティーブ。
一方、アメリカでは、歌手になるため、夫と幼い息子を日本に残して渡米。その間に震災で息子を亡くしてしまったレイコが、自分と音楽を責めていたのです。
スティーブたちは、無事に思い通りの映像が撮れるのか。また、レイコは夢を叶え、日本に暮らす夫に会える日がやってくるのでしょうか…。


監督は“カメ止め”の撮影監督だった曽根剛、監督を務めた上田慎一郎が脚本を担当しています。
デリケートな題材をテーマにしている割には、少々設定が粗く…。
例えば、バッシングの記事も、マキの原稿をデスクが勝手に書き換えたり、スティーブたちの映画のテーマソングも、許可なく人の曲を使ったり。いやいや、著作権はどうなってんのって。
重箱の隅を突っつくような話…ではなくて、そういうのって大事だと思うんですよ。
「えっ?」と思ってしまうと、なかなか作品の世界に戻ってくるのは難しいものです。
すみません。あくまで個人の感想です。★2つ。




『ポゼッサー』は、SFサスペンスノワール。


未来社会。暗殺の完全遂行を請け負う企業がありました。
手口は次のよう。
特殊なデバイスを工作員に装着し、ターゲットに近しい第三者の脳に入り込み、人格を乗っ取り、遠隔操作で殺人を敢行します。任務終了後、操られていた人間は自殺し、工作員の意識は自分の身体に戻るというもの。
タシャは、この組織の一員として高い信頼を得ている、ベテランの女性工作員です。
次々と任務をこなしていたタシャでしたが、ある男の脳内に入った時、彼女に異変が起きたのでした…。


ポゼッサーはPOSSESSOR。所有主、占有者の意。
発想がすごいですよね。
ちなみにR18+指定です。性描写に加え、殺戮シーンがあまりに残虐ということなのでしょう。
意識を自分の体に戻す前に「脱出」と口にするのですが、この言葉も、この映画のひとつのキーワード。
ラストは「そう終わるか…」となるはず。
いつかこんな犯罪が、現実のものになる日が来るのでしょうか。
刃物の入り方が、音が、痛い。流れ出る血が、飛び散る肉片が、すごい。
苦手な方はお控え下さい。★3つ。




『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』は、女性を救う、アフリカの医師のドキュメンタリー。


アフリカのコンゴ民主共和国の東部にあるブカブ。
そこでパンジ病院を営む、デニ・ムクウェゲ医師。
彼が診るのは、この地域の女性たち。年間2500~3000人もの女性が、性暴力によって心身を傷つけられ、この病院に運び込まれてくると言います。
レイプや殺戮といった惨劇が多いのは何故かというと、ブカブにはレアメタルなどの鉱物資源が豊富にあり、それを巡る武装勢力による紛争が、もう30年以上も続いているんだそう。
その兵士たちが、住民を圧倒的恐怖で支配するために、男性は殺害し、女性はレイプするのだそう。
当然、利権で、国や軍とつながりがあるから、罰せられることもなく。
そんな被害者女性を無償で助けているのが、ムクウェゲ医師なんですね。
鉱物資源の恩恵で潤っているはずの国なのに、生活のためのインフラすら整っておらず。富は一部の人間が、独り占めしている状態。
被害女性は20年で40万人以上だとか。
幼い頃に武装勢力に連れ去られたなら、レイプに疑問すら抱かず、行為は“当たり前”になる。
どこかで断ち切らないといけない、負の連鎖。
映画の中で、つらいにも関わらず、悲惨な過去を話してくれた、たくさんの女性たち。
家族を、幼い子どもを、殺され、失った女性が前を向いて「看護師になりたい」と語ります。
その理由は「今度は私が先生を助けたいから」。
2018年にノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師のドキュメンタリーです。
止められるはずの惨劇は、戦争以外にも世界中で起こっています。まずは知ることが第一歩ではないでしょうか。★4つ。




『MEMORIA メモリア』は、タイの巨匠、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督最新作。


ある朝の出来事です。寝ていたジェシカは、ドンという衝撃音で目が覚めます。
近隣で工事でも始まったのかと思ったけれど、そうではなく、ジェシカの頭の中で、その音は轟いていたのです。
ジェシカはそれを、“地球の核が震えるような音”と表現。その音を再現しようと、知り合いに紹介されたエルナンという音響技術者を訪ねます。
出来上がった音を聞いて、「これだ」と頷くジェシカ。
ところが、ジェシカが再びスタジオに行くと、「エルナンなんて男はいない」と言われてしまいます。
やがてジェシカが小さな村に辿りつくと、川沿いで魚の鱗取りをしている男性に出会います。
記憶についての話をするふたり。ジェシカは次第に、不思議な感覚にとらわれていくのでした…。


すみません。ボクには、あまりに難解でした。
あらすじをどう書いたらいいか、迷いに迷ったぐらいで。
今回の審査員賞で、カンヌ国際映画祭4度目の受賞となった今作。また、監督にとっては、初の自国以外でとなるコロンビアでの制作。加えて、第94回アカデミー賞国際長編映画賞のコロンビア代表に選出されたそうです。
確かに映像はキレイだし、風景の切り取り方へのこだわりは見事だと思います。
ただ、ストーリーが難解すぎて。ある意味、ラストは衝撃でした。
こういう作品を観るたびに、「やっぱり、映画評論家にはなれないな」と(笑)。
ちなみに、監督自身が“頭内爆発音症候群”なる病を患ったことがあり、着想はそこからだそう。
コメントのひとつに、「魅惑的で素晴らしく不可解」とありますが、言い得て妙な言葉だと思います。★3つ。