『ギャング・オブ・アメリカ』★★★★
『再会の奈良』★★★
『パイプライン』★★★
『夕方のおともだち』★★★
(満点は★★★★★)




2月になりました。
コロナの影響が大きく出始めたのが2020年の2月の半ば頃ですから、丸2年ですかね。
まだ何が起こるかはわかりませんが、どんな変化にも対応出来るように、心は常に豊かにしておきたいものです。
映画はいいですョ。たくさんご覧になって下さい!
さぁ、今週は4本です!




『ギャング・オブ・アメリカ』は、実在の伝説のマフィアを描いたクライム・サスペンス。


1902年にユダヤ系ロシア人として生まれ、少年期にアメリカに移住してきた、マイヤー・ランスキー。
NYの不良たちを仕切っていた、ラッキー・ルチアーノと仲良くなると、ランスキーは犯罪の世界で頭角を現し、地下賭場の経営、酒の密輸、さらには殺しを生業とするマーダー・インクを設立。その勢力は全米へと広がっていったのです。
アル・カポネらと肩を並べる存在にまで登り詰めたランスキーは、キューバにも事業を拡大。FBIやCIAとの密約があったのか、周囲の仲間が次々と逮捕されても、ランスキーに警察の手は及びませんでした。
マイアミの隠れ家で余生を過ごしていた1981年、作家のデヴィット・ストーンが、ランスキーの伝記本を書きたいと、ランスキーに申し出ます。
ランスキーは、それを受諾。貧乏だった幼少期から、波乱の人生を語り始めたのです…。


1983年1月に肺ガンで亡くなったマイヤー・ランスキー。実在の伝説のマフィアです。
彼の人生は、20世紀アメリカの犯罪史そのものでもあると。ストーンとランスキーのやり取りから、映像は若き日のランスキーへとさかのぼり、当時の緊迫した場面が繰り広げられていきます。
ランスキーは結婚し、子どもを3人授かりますが、長男に障がいがあり、妻との不仲もあって、経済的には裕福でも、決して幸せな家族生活とは言えなかったようです。
一方のストーンも家庭に問題を抱えていて、出版までは、一切、他言は無用としたランスキーとの契約でしたが、ランスキーが隠し持っているとされる3億ドルもの資産をFBIが捜査。ストーンは情報提供を依頼され、心が揺れ動くんですね。
実は、この映画のエタン・ロッカウェイ監督の父が、アメリカ犯罪の歴史家で、実際にランスキーの死の直前に会ってインタビューをしたそう。
ストーンはそんな父親がモデルになっていて、息子であるロッカウェイ監督は、「神話のキャラクターを思わせる、邪悪な力と意志を持っていた」と、突き抜けた裏社会のトップに魅せられていたようです。
決して、暴力賛美の映画ではありませんが、そんな監督思いが伝わる1本に仕上がっています。
レベルの高い、クライム・サスペンス映画だと思います。★4つ。

映画『ギャング・オブ・アメリカ』公式サイト 





『再会の奈良』は、日中合作映画。


奈良で暮らす、中国生まれの清水初美。中国名はシャオザー。
2005年、彼女のもとに、中国に暮らす陳ばあちゃんが来日すると連絡が入ります。
実は、陳ばあちゃん、中国残留孤児を養女にしていたのですが、94年の帰国政策で、養女の麗華を日本に帰すことにしたのです。
しばらくは定期的に手紙が届き、元気な様子が見てとれていたのですが、数年前から便りが途絶え、心配になって、単身、日本に探しに来たというわけです。
血のつながりはないけれど、孫娘のように可愛がっていたシャオザーを頼りに来日した陳ばあちゃん。
奈良に住む中国残留孤児は6人。しかし、日本名がわからないこともネックになって、麗華の所在はなかなか掴めません。
そんな時、ひょんなことから、元警察官だった吉澤一雄と知り合い、3人での麗華探しが始まったのです…。


日中国交正常化50周年記念の映画として制作された作品。
日本側のプロデューサーは河瀨直美。中国側は中国映画“第六世代”を代表するジャ・ジャンクー。
メガホンをとったのは中国のポンフェイ監督。
中国残留孤児の問題、課題は、今も根深く残っていて、残留日本人と血縁関係があるとして来日しても、それを証明出来ないと国外退去処分を課されたり、ブローカーの存在や、そもそもの生活や文化の違いなどに戸惑い、日本の社会生活に馴染めない人も多いようです。
また、2世や3世が、いわゆる中国マフィアになったりする例も多く、問題点が散見しているのが現実です。
映画も、日本国籍を持ちながら、言葉も少し中国訛りのあるシャオザーこと清水初美と、退官して孤独な初老の元警察官の吉澤一雄が、陳ばあちゃんが育てた日本人の残留孤児を探すという。
物語はすっきりとは終わりませんが、それがこの問題の“現実”ということなのかなと。以前ほど話題に挙がらなくなっていますが、実は進行形であるということを表しているのかなと感じました。
重たい話を音楽が和らげてくれていたり、物怖じしない陳ばあちゃんの行動が笑いを誘ったりと、劇中に“救い”も少々。
奈良・御所の風景もそのひとつになっているのかもしれません。★3つ。

映画『再会の奈良』公式サイト 





『パイプライン』は、韓国のアクション・エンターテイメント。


石油の送油管に穴を開け、別の管をつないで石油を盗むという大胆不敵な犯行を“盗油”と言います。
その犯罪を完遂するには高い技術が必要で、ピンドリは究極の穿孔技術の持ち主。
そんなピンドリのもとに、数千億ウォンもの石油を盗まないかという話が舞い込みます。
持ちかけたのは、若き大企業の2代目、ゴヌ。もちろん、高額な報酬を提示してきたのです。
危険と知りながら、ピンドリは要請を受けるんですね。
チームには他に、溶接のプロ、チョプセ。地中のことは何でも知っているナ課長。“怪力人間掘削機”ビッグショベル。ITを駆使して、内外を監視するカウンターの5人。
限られた期限の中で、綿密に立てた計画通りに作業を進めたいピンドリたちでしたが、ハプニングやアクシデントが連発。思うように事は進みません。
冷徹なゴヌは、容赦なくチームを追い立てます。
遂には警察も事件を嗅ぎ付け、ピンドリたちに捜査の手が伸びてきたのです…。


韓国では実際にあったそうですね。盗油事件。
それを時にコミカルに、時にシリアスに描いた作品です。
これだけの大規模犯罪が、いくらプロ中のプロの集団とはいえ、この少人数で出来るのか。正直、ちょっとリアリティに欠けているんじゃない?と思っちゃいました。
韓国映画のすごいところは、緻密に計算し尽くされたストーリーの構築にあるので、それを期待しちゃうとちょっと…といった感じでしょうか。
でも、キャラの立った登場人物たちが、面白おかしく演じてる様に、コミックの側面が大きいのかと思って観れば、十分に楽しめると思います。★3つ。

映画『パイプライン』公式サイト 





『夕方のおともだち』は、山本直樹の同名コミックの実写映画化。


ヨシダヨシオは、市の水道局に勤める平凡な男性。
父を亡くしてから寝たきりになってしまった、母の面倒を見ながらの二人暮らしでしたが、そんな彼にも、ひとつだけ趣味がありました。
それは、街に一軒だけあるSMクラブに通うこと。
同僚と遊びに行ったその店で、自分が真性のドMであることに気付いてしまったヨシオは、仕事が終わると店に赴き、ミホ女王様のお仕置きを受けることが生き甲斐になっていたのです。
ところが、最近はプレイの最中にも、どうにも気持ちが入らない。
原因を考えるに、ヨシオに初めてSMの快楽を教えたまま、忽然と姿を消してしまった“伝説の女王様”ユキ子のことが忘れられないからじゃなかろうかと。
そんなある日のことです。ユキ子が街に帰ってたという噂がヨシオの耳に入ります。
数日後、ヨシオは意外な形で、ユキ子との再会を果たしたのです…


SMの女王様と奴隷という、一風変わった男女のヒューマン・ラヴ・ストーリー。
性描写はかなりストレートで、映倫区分はR18+です。
滑稽に見えて、真面目。真面目だからこそ、どこか哀愁漂うヨシオの毎日。
でも、何が正しくて、何が変かなんて、誰にもジャッジ出来ませんから。
世の中には凸と凹があって、ピタリとハマるなら、それはそのふたりにとって、互いが互いの運命の人。
他人に迷惑をかけないなら、どんなプレイも人にとやかく言われる筋合いはないわけで。あ、性行為に限らず、宗教だって、思想、生活習慣だって、そうですよね。
あなたのノーマルが、実はアブノーマルの可能性だって、なきにしもあらず。
ただ、尖った凸と凹は、見つけた相方を大切にしないとね。なかなかハマらないと思うから。
あぁ、幸せになりたい…(笑)。★3つ。