ガウェインの結婚 | あづまの書斎

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基本的には私が読んで面白かった本のご紹介です。
時々、時事や身の回りの出来事なんかもお話させていただきます。

13歳で結婚。
14歳で出産。
恋は、まだ知らない。



日経新聞の夕刊に載っていたNGO法人の広告なのですが、精神的にまいっている私には多少響くものがございまして、女の子であるというだけで意志を持つことが許されない、途上国の女の子に支援の手を差し伸べよう、という趣旨なのですが・・・。

こんな事を考えてブログに載せちゃうのも精神的にまいっている何よりの証なのでしょうが、さて、当の女の子たちはどう思うのだろうか?
彼女たちのお母さんたちも、そのまたお母さんたちも、同じような境遇にあったと思われ、ひょっとかしたらそれが不幸な事なのだという認識がないかもしれない。
日本のように自己主張をし、中には 『肉食系』 などと称される女の子がいる、という事を聞かされたら大変に驚き、そこで初めて自分が不幸な境遇にいるんだという事を思い知らされるか、そのような境遇を 『不幸』 と言ってしまうのは、私が欧米的価値観に立って考えているからであって、彼女たちはむしろ、そのような女の子たちをこそ不幸だと思うのかもしれない。

アダムとイブは知恵の果実を食したことにより自分たちが裸である事を恥ずかしく思うようになり、ついにはエデンの園から追放されるに至った。
今回の場合、知恵の果実をかじることになるのはどちらなのか。
人様の事であるとはいえ、薄い不安のようなものを感じる。



さて、この話しとタイトルとがどう結び付くのかの種明かしをしておきましょう。

≪書籍紹介≫
中世騎士物語 (岩波文庫)/岩波書店
¥945
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アーサー王、トリスタンとイゾルデなど、伝説やオペラを彩る騎士やレディーが多数登場しますが、今回の記事のタイトル、サー・ガウェインも登場します。
彼の話しを (なるべくコンパクトに) ご紹介します。その前に、
サー・ガウェインも登場するアーサー王の伝説は、12世紀から14世紀のイングランド、フランスで誕生したお話しで、この辺りを踏まえてお読みいただけると、少し違った見え方がするかもしれません。




領地で不法を働く騎士を成敗すべく、根城に乗り込んでいったアーサー王は、返り討ちに遭い捕虜となってしまう。
解放する条件として騎士は問いを出す。
一年以内に答えを見つければアーサーの勝ち。逆に見つからなければアーサーの王国は騎士のものに。その問いとは、『すべての女性がもっとも望むことは何か』。

アーサー王は答えを得るため、国中の女性に問いかけますが、ある女性は美貌、別の女性は健康。その他、富、立派な騎士の夫、子供、若さ・・・。
てんでバラバラで、全ての女性が望むものなど見当もつかない。


一年が経ち、明日はいよいよ騎士との約束の日だが、未だ答えが見つからず、うちしおれたアーサーは暗い森に入っていく。
その暗い森の、一本の大木の傍らに、目もそむけたくなるような醜い老婆がしゃがみこんでいたが、アーサーは気付かないふりをして通り過ぎようとした。
すると突然老婆が立ち上がり、騎士としての礼を欠いた (レディを無視しようとした) アーサーを叱り飛ばした。
慌てて馬を降り非礼を詫びたアーサーに気をよくした老婆はアーサーに言った。

「私はあなたが探しているものを与えることができる」

騎士が出した問いの答えを知っていると言うのだ。
答えを教えるかわりに、若くて健康な騎士と結婚させることを条件に出してきたが、背に腹はかえられず、アーサーはその条件を呑んだ。

約束の日、老婆から与えられた答えに対し、騎士は悔しがりながらも負けを認めた。

答えを探す旅に出てから一年ぶりにアーサーは王宮に帰還した。
喜ぶ円卓の騎士たちとは対照に、アーサーの気分は暗かった。
老婆との約束を果たすため、若くて立派な騎士を娶らせなければならない。
悩むアーサーを見て心を痛め、声をかけてきたのがアーサーの甥でもあるサー・ガウェインである。

アーサーから事情を聴いたガウェインは、自分がその老婆と結婚すると申し出た。
アーサーは反対したがガウェインは聞かず、結局、老婆と結婚する事となった。


形ばかりの結婚式が営まれたが、宴は無し。
ガウェインにしても王を嘘つきにしないための結婚であって愛はないから、新婚初夜だというのに花嫁の顔を見ようともせずため息ばかり。
すると、花嫁がガウェインに問いかけた。

「わが夫よ、あなたは新婚初夜というのに、わたくしを見ようともなさらず、つまらなそうにため息ばかりついておられる。なぜですか」 

ガウェインもはっきり答えた。

「理由は三つある。あなたが老人であること。あなたが醜いこと。あなたの身分が低いことだ」

花嫁が応じて曰く、

「確かに私は年老いているが、それだけ人よりも思慮が深く知恵に富んでるということです。決して、悪いことではありません。妻が醜いことは、夫にとって幸運です。なぜなら、他の男が言い寄ることを心配しなくてもよいから。三つめ、人の価値は生まれや身分で決まるものではありません。魂の輝きによるものです」

ガウェインは、そんなものかと思いながら振り返って花嫁を見ると、そこにいるのは美しい娘だった。

おまえは一体何者だ、と驚くガウェイン。
実は花嫁は悪い魔法使い呪いで老婆の姿に変えられていたのだ。
二つの願い事がかなわなければ、もとの姿に戻ることができなかったのだが、立派な騎士を夫にするという一つ目の願いがかなったので、一日の半分をもとの姿で過ごすことができるようになった。


もとの姿でいるのは昼と夜のどちらが良いかと尋ねる花嫁にガウェインはいった。

「その美しい姿は、二人だけの夜の時間に見せてほしい。できれば、その美貌を他の男たちに見られたくはないものだ」

それに対して、花嫁も自分の希望をはっきりと言った。
女は他の殿方やレディとお付き合いするときに美しい姿でいられたら、それはそれは幸せなことなのだと。それを聞いて、しばらく考えたあとガウェインは言った。

「おまえの好きにしなさい」

すると、花嫁が満面の笑みをうかべて言った。

「たった今、二つ目の望みがかないました。私は昼も夜ももう老婆に戻ることはありません」

二つ目の望みとは、アーサーに与えた答え、『全ての女性がもっとも望むもの』 で、それは 『自分の意志を持つこと』 だった。




初めて読んだとき (小学校高学年だったかな?) は何とも思わなかったが、改めて考えてみると、今から500年以上前、清教徒革命以前に 『すべての女性がもっとも望むこと』 が 『自分の意思を持つこと』 なのだから驚きを禁じ得ない。

冒頭に挙げた女の子たちはどうなのだろう?
恐らく、同じ国や地域の男たちはそんなことを望まないだろうし、ひょっとかしたら女性の中にも望まない人がいるかもしれない。
習慣,因習とは非常に根深く強固なもので、異なる価値観の、特に 『自分たちは洗練されていて、時代を切り拓いていっているんだ』 という意識が根底にある人の話しは、アメリカが民主主義の輸出に失敗し続けているように、なかなか受け入れてくれるものではない。
『自分の意識を持つことが、全ての女性がもっとも望むもの』 というのが、イギリスをはじめとする欧米的価値観の勢力圏だけの事なのか、もっと普遍的な事なのか。
実現が難しいとしても、せめて後者であってくれることを望みます。