遠野放浪記 2015.09.19.-17 百年前の光 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

遠野まつりの夜の部では、民話通りに集った芸能団体による共演会が行われる。

昼の部と同じく、各地の鹿踊りや南部ばやしなどの団体が各所で芸を披露するのだが、時間が短く全ての団体を見ている余裕は無い。そこで、我々は特に目当ての団体を厳選して見学することにした。

 

通りの中央付近には東禅寺しし踊りが来ていると聞き、向かうことにした。

今まさに、たくさんの鹿たちが集い、激しい演舞を披露しているところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇の中、明かりは僅かな街灯と提灯くらいのもので、普通に歩いていても暗いと感じる状態だろう。

そのようなところに東禅寺の白い衣装と漆黒の九曜紋が浮かび上がる様は、まさに霊妙。日常の一角にだけ冷たい空気が流れ込み、神々が降り立って姿を見せているかのようだ。

 

 

 

 

 


鹿の激しい動きはこの闇にあって人の目では捉え切れず、流れるような幾筋もの光と化す。一挙手一投足を逃すまいとじっと見詰めていると、やがて自分もその光に溶けて行くようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

この光は百年の昔に遠野から発せられたものだろうか。遥か広大な宇宙を旅して、今まさに我々の目に届いたのだろうか。今よりも遠野の闇が深かった頃、神々の姿は人々の目にどう映っていたのだろうか。コンクリートに囲まれた現代に生きる我々には、最早想像する以外に知り得る手段は無い。