此処まで幾つもの団体の演目を見て来たが、時間的にそろそろ初日のパレードは終わりだろう。となると最後にどの団体を見学するのかだが、俺の目の前を通り過ぎて行く行列の最後尾が板澤しし踊りだったので、これも何かの縁だと思い、彼らの行列に付いて行くことにした。
板澤しし踊りは上郷の板沢地区に伝わる踊りで、板沢というと上郷駅や貉堂の物語が残る曹源寺がある上郷の中心地区であり、踊りの団体も結構な大所帯だ。
踊りの創始者は地元の名士・菊池田子助と弟の村助という人たちであるとされ、今の静岡県は掛川に旅をした際に見た踊りを持ち帰って広めたものだとされる。遠州発祥とされる鹿踊りは他にも幾つかあり、遠野の鹿踊りの原型は遠州にあると言えるようだ。
一団は駅前へ移動し、日没間近の遠野盆地に今日最後のカンナガラの音を響かせている。
遠野の鹿踊りは概して、衣装の前掛け部分(幕)を靡かせて踊る幕踊りに属するものであり、地域毎に地元の芸能に対するプライドを持ちつつ、同時に他の地域と比較して「我々は遠野の鹿踊りだ」という連帯感も強く持っているのかもしれない。
暗闇に包まれ始めている遠野駅前で、青空のような鮮やかな青の衣装が舞い踊る様は、まさに物語の世界だ。
物語の世界だとは言いつつも、同時に其処には地域に暮らす名も無き人々の笑顔、真剣な顔、泣き顔、ありとあらゆる表情が散りばめられている。街の生活からほんの少し足を踏み出すだけで、そのような世界がすぐ隣にあることに気付く。