遠野放浪記 2015.08.16.-06 淡色 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

宮守を出ると、また車窓には青、白、緑のコントラストが広がる。少しずつ、遠野で過ごした時間が背後に遠ざかって消えて行く。

 

 

三方を山に囲まれた田園の、一番奥に分校の校舎が見えた。巨大な夏の雲が地上に光と影を落とし、そしてその景色も背後に流れて行った。

 

 

 

 

汽車は宮守から岩根橋へ向け、峠の上り坂に差し掛かる。俺は花巻から汽車に乗るとき、この峠を越えて宮守の街に下る車窓の景色を眺めるのが大好きなのだが、今日は逆に、宮守に別れを告げて峠を上る車窓を眺めている。

 

 

 

 

宮守の外れの人家に見送られ、線路を跨ぐ古い石の橋をくぐる。この橋が峠と宮守を隔てる結界のような存在である。

 

 

橋を過ぎてすぐに、汽車はトンネルに入る。暗く寂しいトンネルも、汽車はあっという間に走り抜けて行く。

 

 

 

トンネルを抜けた先にあるのは、森の茂みと岩肌を剥き出しにした山々。岩根橋、宮守、そして達曽部へと至る道が、この峠で交錯する。

 

 

やがて岩根橋の集落が見えて来た。

 

 

駅周辺にはそこそこの数の人家があるが、その先は再びの険しい峠道である。さらに猿ヶ石川の対岸には、峠と共に暮らす人々の家があるが、汽車の窓からは一瞬しかその姿を見ることが出来ない。

 

 

 

やがて昔の宮守村の境界も越え、旅は花巻に突入する。次のトンネルを抜けると峠道は終わり、晴山駅の桜並木が汽車を待ち構えている。

 

 

咽ぶ様な濃い緑に覆われた旅も、もう少しでひと区切りである。