汽車は眩いばかりの光を集める遠野盆地を離れ、山に向かって走って行く。
荒谷前、鱒沢といったあたりはもう昔の宮守村の領域で、遠野城下の人たちにとっては近いようで遠い世界だった。
普通はこうした“境界線”というのは、山や峠といったものによって自然と引かれることが多い。しかし宮守村は、峠を越えて遠野盆地の東端までその領域を広げていた。旧鱒沢村が、遠野方ではなく宮守との合併を選んだということになろうが、峠を挟んででも伴侶に宮守を選んだ理由は何なのだろうか。
汽車は遠野盆地に別れを告げる峠に差し掛かり、鬱蒼とした木々の間を抜けて走って行く。空には何時の間にか、灰色の雲が広がり始めている。
何となく雨の気配が忍び寄るのを感じながら、車窓に映る宮守の景色を眺めていた。山間の平地に広がる水田も、青々とした稲の葉を伸ばし放題に伸ばしている。
人の営みは間違いなくあるのに、目に映るのは山ばかりで、何処となく寂しい風景にも見える。
やがて無事に山を越えた汽車の窓に、宮守の街が映り込んで来た。
雲は多いが日差しは明るく、宮守の山も川も活気に満ちている。
此処で、漸く釜石線の旅の半分である。