遠野放浪記 2015.08.15.-03 空の色 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

昼が近くなり、我々は街で車をチャーターし(つまりTAXI)高清水へ向かった。本当ならばハイキングのように歩いて登りたいところだったが、今日はまだ先が長い。今はまだ体力を取っておくところだ。

 

 

久し振りに訪れた高清水の展望台は空が近く、何処までも歩いて行けるような雲と山々が広がっていた。突き抜けるような青空も良いが、こうして山すらをも軽く凌駕する夏の雲を見上げ、自分の存在の小ささを実感する時間がとても有り難い。

 

 

 

 

 

展望台からは綾織方面、市街地から青笹方面、土淵の奥の方まで見渡せる。太陽の光が雲に遮られ、地上に影を落としている。雲が風に揺れ、地上の影の形も目まぐるしく変わって行く。

 

 

 

バイパス周辺に多くの建物が密集している以外は、大部分を緑の田園が占めている。土淵方面に目を遣ると、もう人知など疾うに及ばない世界でちっぽけな人間たちが暮らしていることがよくわかる。

 

 

 

地上は光と生命に溢れている。とても静かで、風が止むと本当に無音に近い時間が訪れる。そのとき眼下に耳を澄ますと、街で暮らす人々の声が聞こえて来るのだ。目を凝らせばその様子さえ見えることもある。

 

 

 

 

遠野は小さな盆地に形成された街で、周囲は何処までも山に囲まれている。山を挟んで遠くの街が見える……ということもなく、この街以外は地の果てまで山しかないのではないかと思うくらい、山は深く人々の街は小さい。

 

 

 

 

土淵の一番奥には、白望山が鎮座している。遠野の果ての果てであり、地上からその姿を拝める場所は殆ど無い。その人を寄せ付けない場所のさらに奥に、マヨヒガがあると伝わっている。まるで手が届かなさそうな場所に、俺が知らない世界がまだまだたくさんある……考えるだけで気が遠くなるような景色だ。