何時もより少し遅く起きた朝。
くら乃屋さんの朝ごはんは、アジの開きをメインに手作りの小鉢料理が幾つも並ぶ。旅先でいただくとても暖かい朝ごはんだ。
静かに炎が上がる薪ストーブの前では、今日も看板猫のテテが寛いでいる。
テテとはそれなりに長い付き合い(?)で、2018年に亡くなったときには何だかぽっかりと心に穴が開いてしまった気がしたものだ。
この当時は未だ極めて元気で、ふっくらと餅みたいに丸くなった姿が可愛い。
ストーブの前からは動きたくないが客の相手はちゃんとしますよ、というような表情がまるで人間のようである。
チェックアウトの時間になり、荷物を纏めて宿泊代を支払う。
今日は遅めの汽車で出発するため、少し時間がある。御主人も比較的余裕がありそうだったので、お願いして荒神様を拝みに連れて行っていただいた。
この日の遠野は朝から吹雪に見舞われ、数メートル先の視界も不透明な程だ。
真っ白な世界に荒神様の森と御社が浮かび上がる光景は、厳冬期の遠野らしい、人の生活のすぐ側にありながら人が手を触れてはいけないような光景である。
動くものは我々と雪以外に無く、風の音以外に聞こえる声も無い。
こちらが暗い扉をじっと見詰めているとき、暗い扉の中からも何かがこちらをじっと窺っているかのようだ。
冬の荒神様には何度か会いに行ったが、これ程の吹雪の中で拝むのは初めてだ。春を待つ人々の祈りが、ひとつひとつ雪になって降り注ぐ。東北の最も寒い時期の姿である。