2014年、岩手に滞在する最後の一日の朝が来た。
この日の水沢はかなり冷え込み、太陽が完全に顔を出すまで寝袋から出ることが出来なかった。
朝ごはんは、キャンベルスープのオニオンスープの缶詰。昼は競馬場で、晩は万馬券を当てて焼肉に行く(予定)ので、持参したごはんはこれで終わりだ。
雲は多いが、晩秋の澄んだ空気に太陽の光が燃え上がり、東の空は否応なしに気持ちを奮い立たせる表情をしていた。
やがて太陽が完全に昇ると、空気は透明になる。俺は人が起き出す前に荷物を纏め、出発した。
俺が一夜を明かした場所のすぐ近くに、神社があった。神社と言っても、境内は子供たちが遊ぶ公園のようになっており、御社は片隅でその様子を見守っているといった感じだ。
公民館のような立派な建物も並び立ち、此処が地域の人の憩いの場になっているようだった。
この神社は熊野神社で、何となく雰囲気も他の場所で訪れた熊野神社に近いような気がする。
境内には夥しい数の石碑が立ち並んでいて、遠野でも一ヶ所でこれだけの数の石碑を拝める場所は滅多にない。
石碑には金毘羅様、古峯神社といった銘が刻まれたものや、単に大神宮とだけ刻まれたものもある。全てが同じ年代にこの場所に祀られたとは思えないが、このように何基もの石碑が一堂に会する様は圧巻だ。
熊野神社の本殿は、真っ赤な屋根が朝日を浴び、さらに透き通ったような赤を体現している。美しい朝である。
内部には祭壇があり、その手前に「頭上注意」の書き記しがある。一般人は滅多に中に入ることはないと思うが、神職がよく頭をぶつけていたといった事情があるのだろうか。
本殿から石碑を眺める。熊野の神は、御膝元から遠く離れた陸奥でこのような美しい朝を迎え、今何を思っているのだろうか。
さて、そろそろ競馬場を目指して出発だ。競馬場は水沢駅と水沢江刺駅の丁度中間くらいにあり、無料優待バスも走っているが徒歩でも充分アクセス出来る。盛岡競馬場よりもはっきり勝っている点のひとつである。