日が高くなり、フローティングに見えていた境内の風景が次第に光と影に塗り分けられて行く。柔らかな木漏れ日が土の表情を豊かにし、やがて再びフローティングな状態に移り変わって行くまでの間、この小さな世界に色を与える。
森の木々、光、落葉が渾然として渦を巻き、ひとつ先の次元へと吸い込まれて行くかのようである。
俺の目の前には、真っ直ぐな光の道が延びていた。
澄み切った晩秋の朝の空気を切り裂いて、透明な刃がこの世界の謎に切り込まんと静かに鋭さを増している。
今日の目的地に向かって再び歩き始める。
段々と山に近付くこの場所にも、未だ人の暮らしはある。雨に濡れた地面から僅かに暖かい蒸気が立ち上り、庭先の柿の橙が目に入った。
このような場所でも交通事故は起こるのだろうか、車の運転手に注意を促す看板が掲げられていた。
「あぶない子どものとびだしに注意!」とある。
ふと考える。これは、危ない「子供の飛び出し」に注意せよと車に告げているのだろうか。それとも、「危ない子供」の飛び出しがあるから見掛けたら逃げろ、と告げているのだろうか。
非常に難解であり、考えても答えは出なかった。