遠野放浪記 2014.11.22.-09 祝祭 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

北東北の空には闇が迫りつつあり、地上にはひとつまたひとつと星が瞬こうとしている。

岩手は県南に大きな街が多く、一ノ関から平泉、前沢、水沢と足を運んだことがない人でも一度は耳にしたことがあるであろう地名が沿線に並ぶ。

 

 

 

今日は比較的穏やかな天気で、山に消える直前の透き通った光が川面に反射して鏡のように美しい。

 

 

街と街の間には、田園地帯と山々が広がる。山はすぐ近くにあるのではなく、さりとて遥か彼方でただ立ち尽くしているのでもなく、人々の生活とは交わらなさそうでいてその恵みも畏怖も生活に影響を及ぼしている、そんな距離感のようである。

 

 

 

 

 

消え行く太陽の光は、青い空にさえ暗い影を落とし始めている。

 

 

畑では野焼きをしている人の姿が見える。あたりが暗くなると、あの小さな炎が人の道標になるのだろうか。

 

 

東の空は淡い夜の色に変わり始め、西の空は一日の最後に燃え上がる命の残照によって白と黒に二極化されつつある。地上にあるもの全て、やがてひと塊の影になって行くだろう。

 

 

 

 

 

汽車は暫くは小さな街の間を走っていたが、やがて県南の大都市である北上の街並みが見えて来る。

 

 

北上川支流の和賀川を渡ると、新幹線も停まる北上駅だ。向こうに見えているのは九年橋で、その名前は明治9年に天皇陛下が北上へ足を運ばれた際、木造の橋が架けられたことに由来する。

 

 

 

北上市は県内で5番目に人口が多い(盛岡、奥州、一関、花巻の次)。何となく、盛岡の次くらいに多い印象があったので調べてみて意外だったが、前述の5市の面積を比較すると北上が断然小さい(次に小さい盛岡の半分以下)ことを考えると、相対的には盛岡は別格としても、その賑わいは他の市に勝るとも劣らないのではないだろうか。

 

 

そんな北上を過ぎると、村崎野を経て花巻へ至る。もう太陽の光は燃え尽きる寸前で、そのじりじりとした輝きが汽車の中にまで夜を運んで来る。

 

 

 

 

やがて花巻の街に差し掛かり、田園も野焼きの火も見えなくなった。

 

 

まるで世界最後の輝きのような気がして、何故だか胸が切なくなった。勿論、明日も太陽は変わらず昇って来てくれる筈なのだが……。

今回は、花巻駅で乗り換えず一旦改札の外に出るつもりだ。