行列は屋台のすぐ側も通り、観衆だけでなく屋台の主たちからも声援を受けている。
神輿は体力的にもうかなりきつそうだが、表情は何処か楽しそうだ。
子供たちは流石に体力に溢れており、3周目に突入してもなお大きな声を出して行列を盛り上げている。
夏の日差しに照らされて、鹿たちの白い衣装が眩いばかり。
百年も前から、変わらない光景が繰り広げられて来たのだろう。今、俺は遠野物語の始まりの光景をこの目で見ている。
もう少しで行列は鳥居の前に辿り着き、長かった行進も終わる。皆流石に疲労が顔に表れ始めているが、それ以上にこの日を迎え、この光景の一部を成していることに対する情熱が勝っている。この熱量は祭以外では滅多に見られるものではないだろう。
俺もとある祭で神輿を担いで街を歩いた経験があるので、少しだけわかる。やはり祭とは特別なものであり、その担い手たちはこの日のために一年を過ごして来たと言っても過言ではないのだ。