平倉駅は平倉集落の中心に位置しているが、釜石街道も仙人峠道路の入り口も離れた場所にあるため、人々の往来で賑わう様子も無くひっそりとしている。
かつてあった駅舎は跡形も無く、プレハブの簡素な待合室だけがぽつんと立っている。
駅のホームは農道を挟み、早瀬川を向いている。これから山へ向かう釜石線は早瀬川と並んで旅を続けて行く。
平倉駅の愛称は「山の神」。駅標識の可愛らしくも不気味さも漂うデザインは、遠野物語および遠野という土地が持つ、俗物性と神秘性という両端の性質が混ざり合う空気を端的に表しているように思える。
ホームから見渡す風景は一面の田園。こちら側に建物は殆ど無く、背後には森と山が迫っている。あの森の向こうに早瀬川が流れている。
足ヶ瀬方面に陸橋が見える。初めて平倉駅を見付けたのはあの陸橋の上からだった。
先代と共に釜石線沿線を巡ったのは、もう5年も前の話だ。大きな街の風景は絶えず変わりつつあるが、このあたりの風景は、あの頃から殆ど変わっていない。
僅かではあるが、空が明るくなって来た気がする。このまま天候が回復に向かってくれると嬉しいのだが。
これ以上駅ですることも無いので待合室に引き揚げることにする。
駅前にも家はあまりなく、遠くに仙人峠道路が見えるだけの少々寂しい風景である。
このまま出発してしまおうと思ったのだが、たまたま駅の待合室に貼ってあったSL銀河の広告が目に入ったので時間を確かめてみると、後15分位待てば花巻行きのSLが平倉駅を通過しそうだった。しかし駅にはSL狙いらしき人は全然来る様子も無く場所を独占出来そうだったので、ちょっと待ってみることにした。