夜が明けても、空は御機嫌斜めのままだった。長い旅ならいつも晴ればかりでも面白くない。まあ一日か二日、青空が拝めればそれ以上は望むまい。
朝ごはん代わりのパイナップル缶をもぐもぐと食べ、出発の支度をする。青笹駅の頑丈な駅舎は非常に居心地が良かった。
時刻は5時を回ったところ。始発の汽車は6時を過ぎないとやって来ない。青笹駅とその周辺は、未だ眠りから覚めていないようだ。
夜の闇の中では見えなかった駅からの景色が、今はとても良く見える。たわわに実った稲穂が雨に濡れ、その姿は艶やかですらある。
青笹駅はいつも冒険の始まりの駅である。遠野の市街地から外に出て行く場所にある、各駅停車の汽車しか停まらない小さな駅。
駅舎に別れを告げ、遠野の果てを目指して出発だ。
沿道には鮮やかな夏の花が咲いている。遠野の小さな道を歩いていると、いつも季節の花々に癒される。
東京とは当然、風景が全然違う。遠野の中心とも違う。市街地から離れれば離れる程、時代の変化に抗い続ける遠野の真の姿があるのかもしれない。
駅から真っ直ぐ大通りに抜けても良いのだが、釜石線と釜石街道に挟まれた小さな道が走っている。地元民しか通らない静かな道、折角なのでこちらを通ってみよう。
夜に通るとなかなか気付かないが、駅の周りには結構多くの家があり、たくさんの人が住んでいる。駅と共に人々が暮らし、人々がいるから駅がある、そんな風景に出会える旅も良い。