東北を目指す旅は、今回は雨と霧の旅になった。箱庭のような小さな街が、雨に濡れて泣いているようだ。
彼方の山々は霧の向こうに僅かにその姿を見せるだけで、雨が支配する地上に人の気配は無い。
列車は嵐に向かって走る。幸い俺の心配を余所に雨のせいで遅れが出ることも無く、順調に北へと進んでいる。
途中で車窓に小さな街が現れては消えて行くが、何れも変わらず、人々はじっと家の中に閉じ籠って嵐が過ぎるのを待っている。
郡山のような大きな街では、流石にこの天気でも人々が活動している姿を見ることが出来る。しかしひとたび街を離れると、途端に地上は雨音だけが響く世界へと変わってしまう。
子供たちが集うはずの公園も、灰色の景色の中に紛れてしまったようだ。
街に近い山でさえも、雨霧に覆われてその全容を見ることは出来ない。
川の遥か向こうには、普段であれば安達太良山の山容が拝めるはず、なのだが……。
こうもずっと灰色の空の下にいると、流石にテンションも上がらない。今日は遠野に到着するまで、静かな旅になりそうだ。
列車は福島駅に到着。この空模様が直接旅路に影響を及ぼしていないのが、今のところは救いだ。