汽車はいよいよ険しい峠を越え、懐かしい宮守の街が前方に見えて来た。既に見慣れている筈の景色なのに、毎回本当に涙が出そうになるくらいに懐かしさが胸に込み上げて来る。
今回はこの場所が目的地であることもあり、長かった旅が此処で終わるんだなぁ、と実際には後2日間残っているにもかかわらず、寂しさが漂い始める。
鈍く光る夏の夕日に照らされ、街外れの田園は濃い緑に包まれている。
この光と影の奥に、宮守女子高校の校舎がある。
線路はゆっくりとカーブし、斜め前方に宮守の市街地と、宮守駅を出た後に汽車が渡るめがね橋が見えた。
宮守駅のホームに降りた瞬間、焼けるような熱気に身体が包まれた。宮守の夏、静かな夏。そんな一日が間もなく終わろうとしている。
宮守駅の待合室に人の声が響くことはもう、ない。エイスリンちゃんもこのベンチで汽車を待っていたのかもしれない。最初はたった独りで、やがて掛け替えのない仲間たちと一緒に。
エイスリンちゃんを祝うために、俺はあの場所に行かなければならない。
街外れの道を1km程歩き、やがて俺の身長よりも低い釜石線の高架が見えて来た。
俺がこの場所でエイスリンちゃんの誕生日を祝うことに決めた理由は、10巻を読んでください。
それが今、お話し出来ることの全てです。