森の終わりが近付き、行く先から淡い太陽の光が差している。
振り返れば、今まで歩いて来た道が霞の向こうに消えようとしている。暗い森もやがて思い出の彼方に消えて行くだろう。
この橋は、宛ら夢の世界と現実を繋ぐ細い糸。これを渡れば、現実に帰らなければならない時間が否応なしに訪れる。
河川敷の道を歩いても元の場所に帰れそうだが、今回は橋を渡って釜石街道に出ることにする。
宮守川は深い森の中に消えている。間も無く猿ヶ石川に合流し、花巻に向けて流れて行くのだ。
橋を渡ると、その先にも小さな田園がある。釜石街道はもう目の前だ。
河川敷の道にも畦道にも、小さな春の花が咲き、通り掛かる旅人の目を楽しませてくれる。この道を敢えて歩くような旅人は俺くらいのものなのかもしれないが、人知れず広がっている景色を独り占めしていると思うと、喜びを禁じ得ない。
本当にもう帰らなければならないなんて、寂し過ぎる。


