東北一の大都会・仙台と言えど、列車で数駅分も離れると車窓はもう野趣溢れる風景に変わる。
宮城県北に大きな山は無く、遮るものが何もない広大な平原に、水が一杯に湛えられている光景に出会える。東北の晩春の原風景である。
品井沼、鹿島台、松山町といった小さな駅を渡り歩き、車窓からは街と街を繋ぐ道を往く旅人を見送る。
全ての時間が穏やかに流れる、本当に僅かな間の素晴らしい季節だ。
遠くに山々が見え、その麓に小さな街がある。本線とあの街の間には広大な湖が形作られ、同じ現実の世界の存在なのだが、明確に隔てられている。
この場所に身を置いて暮らしてみれば、全てがひとつの世界だと実感することが出来るのだろうか。
県北のターミナルである小牛田駅に差し掛かっても、流れている空気は然して変わらない。
このあたりまで来ると、水田の区画が細かく区切られるようになって来た気がする。街が近くにあるからだろうか、多くの人の間で土地が分配されて来た歴史があるように感じる。
かなり北まで上って来た。まだ水を張っていない田圃もちらほらと見られる。
水を張っている区画にも、既に稲が植えられているところもあれば、そうでないところもある。凪いでいる間は、その水面に山々や街が映り込んで見事な大地の芸術と化す。ひと度風が吹くと、水面に立つ漣がそれらを掻き消してしまう。
列車は清水原、有壁と県境の駅を過ぎ、いよいよ岩手県に突入する。
宮守まで2時間足らず。刻一刻とその瞬間が近付いている。