釜石との市境に向けて進むに連れ、段々と集落の規模も小さくなって来た。
そんな青笹の片隅にある集落の外れに、幾つもの石碑が立ち並んでいた。
石碑を守るように立っている木はイブキで、樹齢はおよそ三百年余りだと推測されるという。
イブキは本来、温暖な土地の海岸に見られるものらしく、温暖でも沿岸でもない遠野に見られるのは極めて珍しいようだ。だからこそ、貴重なイブキを崇めて集落の人たちが根元に石碑を立てたのだろうか。
遠野で目に付く大木の下には、必ずと言って良い程石碑や祠が安置されている。元々、長い年月を経た樹木に対する自然発生的な信仰の念が、遍く根付いているのだ。
イブキの枝は総じて上方向に伸び、成長するとまるで炎が燃え上がっているかのような姿になる。それもひとつ、人々の注目を集めて来た理由であろう。
イブキに見送られて先へ進むと、もう殆ど人が住む家は見られなくなる。このイブキが、集落の境界線を守るかのようだ。
やがて集落最後の家々に差し掛かり、そしてその先は明らかに雰囲気が変わっている。いよいよ峠への挑戦が始まるのだ。
鵜住居までは34km、あの懐かしい街へ行くことも出来なくないが、今回は別の目的があるので、それはまたの機会に委ねよう。
