遠野放浪記 2014.05.04.-06 山と戯れる | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

八合目を過ぎると、斜面にはまだ雪が残っている。


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その光景は春と言うには程遠く、荒れ果てた道なき道が続いているのみだ。

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岩場を乗り越えて行くと、その先は白望山で歩いたような雪原。六角牛はメジャーな山だけあって、雪の上には先客の足跡が残っているが、その道程は非常に心細い。

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何時何処に待ち構えているかわからない落とし穴に警戒し、一歩一歩慎重に雪を踏み締める。

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登山道の片隅には避難小屋があるが、長い間使われていないのか、ボロボロになっている。雪と深い藪に阻まれ、近付く人もあまりいないようだ。

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そしてその近くに、ひっそりと九合目の標識と石碑。もう頂上は遠くない。

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九合目を過ぎると不思議なことに雪は消え、再びしっかりした地面が現れる。もう高い木は殆ど無く、クマザサの藪に導かれて細い道を上って行く。

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有り難いことに傾斜は緩やかになって来た。藪はピークを回り込むようにして生息している。

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空はもう手を伸ばすだけで触れられそうだ。そしてその向こうには、もう何もない。ただ広大な空間だけが果てしなく広がっている。

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人ひとりがやっと通れるくらいの登山道が藪の中を上っている。先人が遺した赤いリボンを頼りに、伝説の山の最奥が近いことを信じて歩く。

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また少し高いところへ上り、完全に木々が切れると、その向こうに下界の街が見渡せた。

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あれは丁度、上郷駅あたりの風景だろうか。そして幾重にも連なる険しい山々の向こうにも、人が暮らす小さな街が形作られている。あれは赤羽根あたりか、それともさらに向こうの下有住あたりか……。

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こうして下界を見晴らして実感する。やはり山は特別な場所だと。

神が坐す場所に近い極限の環境から、小さな人間は何が見えるのだろうか。