遠野放浪記 2014.04.29.-06 新しい旅路へ | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

後は家に帰るだけになった俺は、いつもと少し気分を変えて湯島の路地裏を帰り道に選んだ。

騒々しい東京の中でも、俺が住んでいる文京区は昔からある住宅街が多く、他の区とは一線を画す歴史ある土地なのだ。


1

2


湯島天神の裏手には小学校があり、また放課後に子供たちが遊ぶ公園がある。夜の公園は人っ子ひとりいなく、寂しい。

3

4


このあたりには繁華街や大きな商業施設もないので、夜になると殆ど人通りが無くなってしまう。尤も正しい街とはそういうもので、夜も騒がしい天神様の下と比べてずっと良い。

5

6


ちょっと回り道をしてから菊坂へ。此処も夜になると、時たまヨッパライを乗せたタクシーが通るくらいで、人気は殆ど無くなってしまう。今は新しいマンションなども出来、少しずつ雰囲気は変わって来ているが……。

7

8


今は無き柴田商店の交差点から裏菊坂に入り、さらに静まり返った昭和の住宅街を抜けて自宅を目指す。裏菊坂の一番奥には小さな公園があり、車も入って来られない細い道の奥で子供たちは平和に遊んでいる。

9


公園には何故かいつも三輪車が放置されている。持ち主は何処へ行ってしまったのだろうか。

奥にも道が続いているように見えて、ふらりと誘い込まれるように入ってみたが、その先には砂場があるだけですぐに行き止まりになってしまった。

10

11


公園の脇道から、さらに古い住宅が密集した細い路地を抜けると、もう間もなく我が家だ。

12


此処では古い井戸が未だに現役で頑張っている(防災用水としてのみだが)。近くには、樋口一葉さんが生前利用していた井戸が残っていたりもするのだ。

13


しかしながらこのあたりにも、再開発の魔の手は着実に忍び寄っている。姿を変えて行く大好きな街を目の当たりにしたとき、俺は何を思うのだろうか……。

14

15

16


変わらない本郷の街が好きで此処に住むことを選んだのに、その街が変わってしまっては東京に住む意味もあまりない。一応仕事をしているので、すぐに東京に愛想を尽かすというわけにはいかないのだが、この街での生活ももう長くないのかもしれない。

東京を離れるならば、行き着く先はやはり岩手が良い。そのとき岩手は俺を受け入れてくれるだろうか?

そう遠くない将来に訪れる別れのときに思いを馳せつつ、俺は自宅のドアを静かに開けた。