遠野放浪記 2014.04.28.-09 束縛への帰結 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

立丸峠での目的を全て果たした俺は、再び市境を越えて遠野に入り、それから峠に別れを告げて街へ戻ることにした。


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市街地までは23kmと長丁場だが、ほぼ峠を下るのみなのでそう時間は掛からないだろう。

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境界線上の空気に後ろ髪を引かれながら、俺はパティに跨りゆっくりと坂道を走り始めた。

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人外の領域の山々は瞬く間に後方に流れて消えて行き、あれ程苦労して上って来た道をパティは凄まじいスピードで駆け下りる。

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やはり、帰りも他の車とはすれ違わない。周囲に再び森が生い茂り、何処からともなく小烏瀬川が道に合流して来る。山間の秘境・恩徳集落が近付いて来た。

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傾斜が幾分か緩やかになったところで、俺は来るときには気付かなかった旧道跡が車道から分岐していることに気付いた。ほんの少し車道を迂回するだけの道だったので、入ってみることにした。

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今でも工事車両の退避所などとして使われているのか、周囲がほぼ手付かずであるのに対し、地面だけはやけに綺麗に踏み固められている。

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ものの数十メートルで、道は再び車道に合流した。

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車道と旧道の真ん中には、ささくれ立った巨大な岩がどでんと座り込み、道を分断している。昔はこの岩を回り込むようにしか道を敷けない、何らかの理由があったのだろうか。

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その岩肌は長年に亘って人の手で傷付けられ続けて来たようにも見えるし、ただ黙して風雪に耐え続けて来た姿のようにも見える。

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遠野では巨岩もまた、数多ある信仰対象のひとつだった。

今では周囲に住む人の姿は無いが、かつては峠の住人にとって、またこの道を越えて行く旅人にとって、この岩が大きな意味を持っていた可能性もある。