恐怖の山伏屋敷の向かいには、朽ちかけた小さな鳥居が立っている。
小さな神社の境内は長いこと人の手が入っていない様子で、荒れ果てている。
拝殿の中ももうボロボロで、所々床が抜けている。申し訳程度に渡してある板も、上を歩いただけで朽ち果てそうだ。
本殿の扉には錠が掛けられ、中を窺い見ることは出来ない。長年風雨に晒されて木枠が歪み、今にも自然に開いてしまいそうな様子だが、この錠が解かれることは恐らくもうないのだろう。
結局何が祀られているのかはわからなかった。恩徳が旅人で賑わった時代には、集落を見守る鎮守として地元民に親しまれて来たのだろうが、今は集落と共に緩やかな終末の時を待つのみである。
神社の入り口からは、まだ僅かに人が残る集落の様子が見渡せる。
神社を出発して再び峠道を上り始める。遠野市側にもう集落は無い。只管寂しい山道を行くと、やがて宮古市に到達する。
不思議なことに、集落からかなり上った場所に、鮮やかな朱塗りの鳥居が立っていた。やはりかなり傷んではいるが、集落の外れにあった神社の鳥居よりも綺麗だ。
しかし、その背後には道なき道が続くのみだ。山の上にはもしかしたら御社などが残っているのかもしれないが、いったい何処の人が参拝に来るのだろうか。この神社もまた滅んで行く運命なのか……。
恩徳よりも峠側に、昔は集落があったのかもしれないが、今やその痕跡は残っていない。
ただ俺が、此処に小さな街があり、それを見守る神社があったことを覚えておこう。