西内という集落の先に、一際目立つ巨岩がある。花崗岩で出来た巨大な奇岩が、本日の遠野遺産、舌出し岩だ。
近付いてみると、成程その姿は舌を出して人々を見下ろす龍の顔に見えた。
これはかつて、栃内の沼袋という土地に棲み付き、暴れ回って人々を苦しめた龍が石になってしまったものだと言われている。胴体は同じく栃内の二ツ岩に、尾は其処から少し南に下った、大楢と角城の境にある河原に横たわっていると伝えられている。
岩の下には小さな不動尊が安置されている。今は雪に埋もれて近付くことが出来ないが、春になればあそこまで上ることが出来るようになるのだろうか。
この岩は一ノ渡側から見ると、先程のように龍が舌を出している姿に見えるのだが、正面に移動してみると、古代の巨岩文化が色濃く残る遠野らしく、何らかの遺構への入り口にも見える。
さらにこの岩、自然に出来上がったものにしてはやたらと直線的な形をしている。古代の人が、人知の及ばない何かを意図的に地面の下に封じ込めた跡のようにも……。
もしかしたら、伝説においてはっきりと伝えられていない部分にこそ、この舌出し岩の謎が隠されているのかも……。
今でも隙間から中を覗けば、知られざる遠野の過去の姿を垣間見られるのかもしれない。しかし今の俺には、それはまだ見てはいけないもののように感じられた。