
澄んだ空気の中、旅に着いて来るのは雲だけである。


まだ朝日が眩しい時間帯、微睡から醒める気だるげな空気が車内に充満していた。



街から街へと繋ぐ道は大小様々あれど、等しく人々の生活に根差している。小さな道も歩く人が多くなれば大きな道になり、そんなものが無数に集まって現代の社会というものを形成しているのだ。


列車は少しずつ大きな街から離れ、東北に向かって突き進んでいる。僅か一週間でも、風景の中には必ず何か違うところがあり、一度たりとも同じ景色に出会ったことは無い。

ただ只管に広い田園が、まるで明るい旅路を象徴しているようではないか。

冬には無かった“水”が少しずつ風景の中に戻って来て、その中から次の生命が芽吹いて行く。北関東はもう少しで春だ。

朝日が水面に反射して、暖かな風が列車の中にまで吹き込んで来るかのようだ。もうそろそろ、宇都宮線の終わりが近い。

列車は北関東の外れに差し掛かり、これから山間部へと入って行く。

黒磯を過ぎると、いよいよ本格的に旅路の真っ只中に飛び込んで行くような気がして、ワクワクするのだ。