姉帯の中心から馬渕川へ下ると、小さな橋が架かっている。
これが姉帯村の深淵へと通じる唯一の道だ。
川向こうにはたくさんの家があり、まだ雰囲気は賑やかな集落といったところだ。
まだ現役の井戸だろうか、庇で大切に守られた石造りの水場の脇に、秋葉大神の石碑が佇んでいた。
秋葉大神は火防の神だが、かつてこの井戸の水で村の火事が食い止められたといった出来事でもあったのだろうか。
調べてみても、観光地でもない姉帯村の伝説にはわからないことが多い。
やがて道は村の中心を抜け、寂しい山道へと移り変わってしまった。
空はあっという間に寒々とした色の雲に覆われ、細やかだが雪までちらついて来た。
姉帯さんのルーツを探る旅は、どうやら困難なものになりそうだ。
霞みの向こうに隠れてしまった太陽も、不安気な弱々しい姿でこちらを見下ろしている。
道はみるみる険しくなり、宛ら峠越えの様相だ。尤も、面岸から先は九戸に至る境界の道に入って行くので、この道も峠の入り口であることに間違いはないのだが……。
僅かな先も見通せないような急カーブが続く。このような道の果てに、人が住む場所があるのが不思議にすら思えてしまう。
雪も少しずつ勢いを増して来る。帰る前に大降りにならなければ良いのだが。