境内に高舘の解説が掲げられていた。面懸氏はかなり健闘していたようだが、後に遠野を支配する南部氏の大軍には敵わなかったようだ。
街外れの、山に近いこの場所は、最後の抵抗に相応しい場所だったのだろうか。
境内にはもうひとつの見所、面懸氏が植えたという古い桜が残っている。
幹は節くれ立ち、洞も大きく往年の雄姿にはないが、この木は今でも春になると花を咲かせ、地元の人々はそれを楽しみに神社に足を運ぶという。
今はじっと寒さに耐える季節。雪が溶ければ、人々の足音も聞こえて来るようになるだろう。
桜の脇には、参宮記念碑が安置されていた。遠野の神社にしては石碑の姿が殆ど無いことを前回の記事で紹介したが、こうしてひとつでも安定感のある古い石碑を発見すると、その姿から此処が遠野であることを実感出来て安心するのだ。
かつては遠野支配の一端を担い、栄華を誇ったであろう面懸氏の高舘も、今は昔。遠野遺産に選ばれたということと古い桜の木だけが、この土地に残る夢の香りを微かに現代に伝えている。
雪に塗れた参道を下ると、背後から微かに、勇猛な咆哮が聞こえて来た気がした。
次に目指す遠野遺産は、どのような歴史を今に伝えているのだろうか。