遠野放浪記 2013.12.30.-10 あの街 | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

遠野を出発した汽車は、雪煙を上げて街を離れて行く。


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遠野の景色とも、来年までのお別れだ。

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街外れの猿ヶ石川を渡ると、車窓に見える風景は白一色に変わる。

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時折、小さな街を見送りながら、残り一日半を切った2013年の遠野の時間を、車輪の一回転毎に進めるように、汽車は宮守を目指して進んで行く。

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車内には暖かい空気が流れ、この時間ではそう多くない乗客たちも、次第に微睡の世界に落ちて行く。俺は暫くは拝めない遠野盆地の景色を記憶に留めるため、ずっと窓の外を眺めていた。

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荒谷前から鱒沢にかけて、遠野盆地の終わりも見えて来る。少しずつ目に見える風景が変わって来る。雪に支配された寂しい冬の山が近付き、汽車は峠に入って行く。

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遠野と宮守を隔てる峠の途中にも、人々が暮らす場所がある。静かに雪に覆われて行く小さな街にも、人ではないモノが支配する峠道にも、等しく一年の終わりが訪れようとしている。

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長い峠を越えると視界は開け、懐かしい宮守の街が眼下に見えて来る。

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めがね橋を渡る汽車から眺めるこの風景は、釜石線の車窓の中でも一番好きだ。

宮守も駅が無人になり、ゆるやかに街としての衰退を迎えていると言われているが、俺はこの先百年経っても、この風景、宮守という街が持つ暖かい空気は変わらずにいて欲しい。

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さて、もう間もなく汽車を下りる時間だ。残り半日、出来る限り宮守と一緒に時を過ごそう。