花巻の果ての街は、目に見える景色から感じ取れる空気まで、全てが初めての体験だった。
知らない街を道から道へ、最早目的地に辿り着けるかどうかさえも大した意味を持たず、この時間が俺の全てであるような感覚になって来る。
何時の間に、燃えるように色付いた山が目の前に近付いている。
このあたりまで来ると、実際に定住している人はそう多くなく、農業を営む人や温泉などで働く人が殆どのようだ。
秋の空に見送られ、疎らながらこの土地に根差す建物に別れを告げる。
もうどの道が正しいのかもわからない。俺は気の向くままに、田園の間を縫うように延びる畦道を歩いて次の風景を目指した。
もうそろそろ昼が近い。時計を見ていないので正確な時間はわからないが、きっと俺の旅も終わりが見えている頃合いだろう。
水路に架かる橋を渡って、再び街に向かう道を探す。今はこの人が造ったモノが、俺を導く道標になってくれる。
明るい日差しに照らされて、次第にまた家々が小さくなって行く。俺が今日限りで此処を去ろうとも、この小さな街は明日も明後日も、同じ時間が流れるのだろう。






