次に見えて来た建物は、街ではなく何かの事務所だった。なるほど、ある程度広い敷地が必要な事業はこうして街の外で展開されているわけか。
さらに先へ進むと、また小さな街が見えて来た。その向こうには大き目の建物も聳えていて、この道もまたひと区切り付きそうな予感。
この街も相変わらず人気が無いが、何だか雰囲気は仄かに暖かい気がする。
森に守られるようにして立つ家。きっと昔から、このあたりの街の中心なのだろう。
周囲にはビニールハウスや納屋を備えた家が多く、この広大な田園地帯の中でも、農耕の中心はこのあたりなのかもしれない。
とはいえ此処も小瀬川ではないようだし(シロもいないし)、また次の街を目指して行こう……と行く手に連なる山を見遣ると、その上空にようやく青い空が広がり始めていた。
朝霧がたなびく花巻の街と、その背後に聳える山の稜線と空との境界線が次第に明確に、シャープに変化する。ようやく岩手に朝が来たようだ。
俺はこの愛すべき小さな街をゆっくりと通り、僅かでも長い時間、この風景を目に留めようとした。
長かった夜の雨が上がり、真っ直ぐに延びる道の先には朝が待っていた。こんなにも美しい光景を、共に見る人がいないのが残念な程だ。
車道と歩道が分けられていて、電信柱も延々連なっている。
とはいえ未だにこの時間帯、車の姿には全くと言って良いほど御目に掛からない。